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心霊

とくのしんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ヤンキー危機一髪
短編 2024/02/02 12:08 5,387view
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俺の兄貴の話。3歳離れた兄貴は所謂ヤンチャ小僧で暴走族だった。暴走族って言っても20人程度の族で、そこで兄貴は頭を張っていた。茨城の片田舎じゃ遊びも少ないし、喧嘩が強いってだけで持て囃されたから、ある意味神輿にされたんだろう。兄貴もバカだから有頂天になっちゃってさ。特服着ては夜な夜な走りと喧嘩に明け暮れた。

5月生まれの兄貴は18歳になるとすぐに自動車免許を取った。愛車のCBX400から親に買って貰った新車のセルシオに乗り換えたんだけど、普通に乗ればいいのに、あっちこっち改造しまくってさ。オーバーフェンダーに竹槍マフラー、趣味の悪いホイールにダッサイ族ステッカー張ってヤンキーオートに写真送ってた。それが悪いことに掲載されたのよ。

「死ぬほど気合入ってるんで夜露死苦!」

腕組みした兄貴が読者にメンチ切って恥ずかしいセリフで紙面を大々的に飾っちゃって、お前の兄貴すげぇな!とか同級生のヤンキー連中に言われたけど、身内からすると恥を晒しているようで穴があったら入りたいくらいだった。田舎なんてそれはもう世間が狭いからさ、雑誌なんか載ってみ?そういう連中の目に嫌でも止まるから、すぐに因縁つけられるんだよ。隣の千葉からわざわざ兄貴に喧嘩ふっかけに来たバカもいたぐらい。そんとき俺も一緒にいたけど、マジで巻き込まないでくれって心底思った。

そういう経験が兄貴に箔をつけさせたとか思わせちゃうわけで、残りの高校生活のうちに茨城制覇するとか言い出しちゃってさ。現役の族仲間だけじゃなくてOBまで出張ってきちゃって。お前ならやれるとかみんな口々にいう訳ですよ。その様子を漫画の読みすぎだろと弟の俺は呆れかえっていた。そんな絶頂期の最中に、兄貴は死ぬほど洒落にならん体験をしたそうだ。

夜も更けた深夜1時過ぎ、御自慢のセルシオの助手席に彼女を乗せて、兄貴は県道51号を流していた。信号で止まっていると、後ろから来た車がライト上向きにぴったりと停車した。信号が変わり発進すると、今度はめちゃくちゃ煽ってくる。クラクションを鳴らすわ、パッシングは凄いわ、そんな煽り運転に兄貴も頭来て急ブレーキ踏んだり、窓から中身の入った缶ジュースを投げたりしたが、それでも相手は煽りを止めない。兄貴がブチ切れて車を停車させたら、その車は兄貴の車を追い越して通せんぼするように停車。車は白のマークⅡだった。

兄貴は積んであった鉄パイプを持って、彼女の静止を振り切って威勢よく車を降りた。鉄パイプ片手に相手の車に向かって行くと、マークⅡの運転席側のドアが開いた。一瞬兄貴も身構えたが、相手は降りてこない。兄貴が鉄パイプ引きずりながらマークⅡの運転席に近づくと、踵を返して猛ダッシュで戻ってきた。運転席に戻ってきた兄貴は血相を変えて「やべぇやべぇ!あれはやべぇ!」と狼狽えた。慌てながらギアをRに入れて急発進させた。状況が全く飲み込めない彼女が兄貴に「何がどうしたの?」と訊きながら兄貴の顔を見ると滝のような汗を流していた。彼女の問いに返答する余裕すらないような狼狽ぶりに、彼女が言うにはヤクザに拳銃でも向けられたかと思ったそうだ。少々のことには動じない兄貴だったし、10人くらいに囲まれたときも平然としていたし、度胸だけはある兄貴の様子に、相手がただ者でないことは予想がついた。

兄貴の彼女は、視線を前方に移した。

バックしながらもヘッドライトに照らされた、こちらに向かってくる男の姿と、開いた窓から聞こえる男の声に彼女は驚愕し悲鳴を上げた。

男には首がなかった。

ギイイイイイイイイ!というような獣が発しないような異様な声というか機械音のようなものを発しながら凄い勢いで迫ってくる。その光景に彼女はひたすら絶叫していた。

兄貴はバックを続けて男と距離を取り、途中急ハンドルを切って車を半回転させてその場を切り抜けた。耳を劈くような金切声は、ミラー越しに男の姿が見えなくなるまで聞こえたという。

それから兄貴は走りを止めた。族が夜走れなくなったら終わりだと、本当の理由は語らず、適当な理由をつけて後輩に強引に頭を継がせて引退した。茨城制覇は後輩に託したとか最後までくっさいこと言ってたけど。それで兄貴はというと自動車整備学校に進んで、今は真面目に整備士をやってる。その当時の彼女はそのまま兄貴の奥さんになった。

この話はそんな二人から直接聞いた。

「喧嘩でビビったことはないけど、あれはマジでやばかった。あいつ見た瞬間、全身が凍り付いた。勝てる勝てないとかそんな話じゃねぇんだよ。あ、殺されるって見た瞬間に思わされた。ここだけの正直な話、マジでしょんべんちびったしな」と兄貴。「死ぬほど気合入っていたんじゃねぇのかよ」と俺の突っ込みに、「バカヤロー!人じゃねぇもんに気合とか通じねぇよ!」と頭をどつかれた。兄貴の奥さんも当時レディーズやってたけど、あんなにビビったのは生まれて初めてだったそうだ。

首のない幽霊の正体も、兄貴が狙われた理由も全くわからない。地元では首無し幽霊が出るとかそういう噂もない。バカやってた二人の名誉のために言っておくけど、薬物とかシンナーとかそういう類のことはやってないことだけは断言しておく。今でも兄貴は夜の運転は控えていることと、余程のことがない限り県道51号線は昼間でも通らないそうだ。

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コメント(7)
  • 次の作品も楽しみにしています

    2024/02/03/20:28
  • なんか変だねぇ

    2024/02/07/20:05
  • 作者です。
    みなさんの投票のおかげで優秀賞を受賞することができました。
    ありがとうございました。

    2024/03/01/12:53
  • 必死か

    2024/03/01/20:22
  • 他の投稿者がだらしないだけ

    2024/03/03/21:02
  • 実写化して欲しい

    2024/03/19/19:34
  • これはよい 短編なのがまたよい
     ふふふ

    2024/03/26/12:50

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