廃病院より
投稿者:件の首 (54)
廃病院の敷地に掛かったチェーンをくぐる。
正面玄関のガラスの自動ドアは、既に半分が割れていて、素通しの状態だった。
中学のクラスメイトである僕ら5人はガラスの破片を気にしつつ、院内に入った。
ほんの思い付きの肝試しだった。
僕達は霊安室を目指していた。
「裏口の近くにある」という、心霊スポットブログの曖昧な情報しかなかった。
ひたひたと恐怖心が押し寄せる。
危険が迫っている訳ではないのに何故なのか、よく分からなかった。
慎重に進むうち、部屋のプレートがないドアに辿り着いた。
ドアを開け、中に入る。
強い気配があった。
あの世とこの世の境界線、そんな事を意識したのかも知れない。
部屋はがらんとして、何もなかったが、その何もなさが死そのもののような感覚がした。
「帰ろうぜ」
そう言って振り向く。
すると。
後から来ていたはずのクラスメイトは、5人ともいなかった。
隠れてからかっているのか、はぐれたのか、よく分からない。
「おーい……」
大声を出そうとしたが、声がかすれた。
「おおおい!」
今度は腹に力を入れて叫んだ。
反響してくる自分の声以外、耳に入る音はなかった。
僕は独り、廃病院の外に出た。
敷地の外で懐中電灯を振りながら、10分ほど待ったが、誰も出て来なかった。
スマホでメッセージを送ろうとしたが、データが壊れたのか誰のアドレスも見つからなかった。
翌日、学校に行くと。
5人は通学して来なかった。
いや。
というよりも、元々いなかったように、教室の席は詰められていた。
彼らは神隠しにでも遭ったのかも知れない。
僕はそう考えて、昼間に何度か廃病院に来てみたが、手がかりは見つからなかった。
そして中学を卒業しても、彼らが帰って来る事はなかった。
存在そのものを隠してしまう神隠しとは。
気になる
僕ら5人で居なくなったのも5人だけど語り手は誰なの?
凄く怖かったです。病院の怖い話案外怖かったです。