届かない声
投稿者:ねこじろう (147)
今年四十路に突入する俺は、今日こそは彼女いない歴=年齢という不名誉な肩書きを脱出するつもりだった。
身長は170センチに若干届かない塩顔のフツメンで、年収は300万を行ったり来たり。
今時の女子たちのいう、いわゆる理想の男性像には程遠いかもしれないが、そんなことを気にしていたら何も始まらない。
とにかく行動しようと、年明けの初詣で誓ったんだ。
それで前月張り切って挑んだとある恋活パーティーで、何と32歳の歯科衛生士の女性と知り合ったんだ。
はっとするような白い肌で、しかも美形でスレンダー。ドキドキしながらも勇気を出して声をかけると意外にも好反応。
お互い話題も共通して意気投合。
一回目のデートは彼女行き付けというイタリアンでパスタランチの後、湾岸をドライブ。
終始笑顔だった彼女に別れ際、緊張しながら二回目のデートを切り出したら何とすんなりオーケー。
そこで今日は奮発して都内にある四ツ星ホテル内にあるフレンチレストランで、コース料理を予約したんだ。
午後六時半きっかりに彼女が登場
白のミンクコートが眩しい。
セミロングのストレートの黒髪と透き通るような肌に見とれながら、着なれないスーツの袖を気にしつつ話題をと切らせないように終始頑張ったよ。
彼女も食事の間、よそ見なんか一度もしないで優しげに微笑み続けていたんだ。
─これは、もしかしたら、、、
俺はこれからの彼女との未来に、胸を膨らませていたんだ。
決して安くはない会計を済ませたときは、八時を過ぎていたな。
「少し歩こうか?」
と言って、夜のビジネス街を颯爽と歩きだしたのだが、なぜか彼女が付いてこないんだよ。
振り向き後戻りして、一抹の不安を感じながらも尋ねてみる。
「どうしたの?」
しばらく彼女は顔を伏せたまま立ち尽くしていたんだけど、やがて途切れるような小さな声でこう呟いたんだ。
「ごめんなさい。あなたとはもう会うことは出来ないの」
軽いめまいを感じながらも、頑張って尋ねてみたよ。
「ど、どうして?」
彼女からの返答は、予想もしなかったものだった。
「実は昨晩、ずっと音信不通だった彼氏から電話があって、、、」
その後も彼女はしばらく何かしゃべり続けていたようなのだが、なぜか俺の耳は両方ともほとんど機能を停止していて、全く聞き取れなかった。
ただはっきり言えることは、彼女と会うのは今日が最後ということだった。
その後俺はどこをどう歩いたのか全く記憶がない。途中何度となくすれ違う人とぶつかり罵声を浴びたりした。
そしてようやく駅にたどり着くと改札を通り、プラットホームを夢遊病者のようにフラフラ歩いていたところまでは何とか記憶があるのだが、その後はどうしたのか、意識を取り戻した時はホームのベンチに座っていた。
ふと辺りを見ると、何故か構内は人で溢れかえって騒然としており、どうも様子がおかしい。
どうやら人身事故があったらしく上下線とも後一時間は復旧の見通しがついていない、ということだった。
途方にくれながら再び外に出て、ふらふら駅周辺を歩いていると、駅前テナントビルの真横に古びた一軒の喫茶店が目に入ってきた。
もの悲しいな