町工場
投稿者:四川獅門 (33)
体験者 安田 一(仮名)
2003年~ T県 某所
安田さんの勤務先は一見ごく普通の町工場だが、少し問題を抱えていた。
「噂とかそういうレベルじゃないんだよね、長く居る従業員はみんな慣れてきちゃってんだ」
どうも複数の従業員が異様な経験をしているらしい。
「そのせいか新しく人が入っても、なかなか居着かない。すぐ辞めちゃうわけ。理由はそれだけじゃ無いだろうとは思うけどね」
ある日安田さんは1人で遅くまで作業をしていた。
「鉄筋を加工する機械でね、すごくうるさいんだけど、機械の音に混じって聞こえたんだ」
『ゆるさねえぞ』
驚いて機械を止める。シーンとした作業場。誰もいない。
「最初は気のせいだと思ったんだけど、やけにはっきり聞こえた」
他の従業員も同じ体験をした。決まって『ゆるさねえぞ』と聞こえる。誰も残業をしたがらなくなった。
遅くに日報を書いていると作業着の男に後ろから覗き込まれた者もいた。
作業中に視界の端に人影が見える。無視しているとだんだん近づいてくる。視線をやると誰もいない。妙な話は絶えなかった。
「みんな大体察しがついてた。アイツじゃないかってね」
どうやら前の年に自殺をした作業員がいたらしい。名を黒田としておく
「声の特徴や、背格好からして黒田っぽいって話になって、それで全員納得してた」
「遺書も書かないで自分のアパートで首を吊ったらしい。普段から全然喋んないから誰も動機が分からなかった。変わった奴だったよ」
黒田さんが何に怒っているのか、誰にも分からないらしい。
ある日安田さんが帰宅してシャワーを浴びていた時だ
「シャンプーしてたら、はっきり聞こえた」
『ゆるさねえぞ』
「ギョッとしたね。家まで来やがった。怖いというより腹が立った」
「生きてる奴なら怒鳴り散らして終わりだけどこれはタチが悪いだろ?君もそんなに幽霊話が好きならアイツを連れてってくれ」
安田さんはタバコを片手に豪快に笑った。会社でお祓いをしたらしいが、妙な話は絶えていないそうだ。
ちょび髭の黒田かな?