アパート全体に取り憑いていたはずの女の幽霊

友人Aの家に遊びに行った時の話です。
Aの家は築40年くらいの古いアパートで、風呂・トイレはあるけど全室畳だし歩くと床がギシギシと鳴るし、窓が小さいので昼間でも部屋の中がすごく暗いのです。
私は引越しを手伝った時に一度その家に行ったことがあるものの、あまり良い雰囲気がしなくて、Aに呼ばれても何かと理由をつけて行かないようにしてました。
でも、Aは何度もしつこく「Bも来るから久しぶりに皆で話そうよ」「相談したいことがあるから家に来てほしい」って誘ってくるんですよね。
とうとう断り切れなくて、Bも行くなら…って、Aの引越しの手伝い以来、約1年ぶりにAの家に行くことにしました。

Aの家は相変わらず、いえ、以前よりも更に雰囲気が悪くなって、アパート全体がどんよりとした雰囲気をしていました。
Bは普段、あまり勘が良い方ではないんだけど、この時ばかりは「Aの部屋入るの怖いなぁ、用事が出来たことにしてこのまま帰らない？」なんて言ってました。
多分、霊感のないBなりに、何か感じ取っていたんだと思います。

帰ろうかどうしようか、でもそれってAに悪いねなんてアパートの前で決めかねていたら、とうとうAが部屋のドアを開けて私とBを見つけてしまいました。
「あ、2人とも来てくれたんだ。そんなところで何してるの？早く入っておいでよ」なんて言われたら、今更「用事が出来てやっぱ無理」とは言えません。
嫌々だけどBと一緒に、Aの部屋に入ることにしました。

数時間したら用事が出来たってことにして帰ろうって、Bと決めて。

でも、Aの部屋に入って、「ああ、やっぱりすぐ帰るべきだった」って本当に後悔しました。
だって、玄関を入ってすぐ見える部屋（恐らくリビング）に、明らかに人ではないものがいるんですから。
Aはその存在に気づいていないのか、私達を部屋に招き入れて、リビングの椅子に腰かけました。
リビングには大きめのテーブルと、それから椅子が4つあって、Aが座ったのはやばいものの隣の席。
私は出来る限りやばいものから距離を取りたくて、Bには悪いけど、Aの対面の席に座った。Bは私の隣の席。

久しぶりに会ったAは目の下に大きなクマを作っていて、顔も心なしかこけてました。
その日は12月で、雪は降っていないけれどとても寒い時期で、AもBも私も服を結構着こんでいたんだけど、それでもAの体が前と比べて明らかに痩せ過ぎているんです。
Bが「A、体調悪いの？すごい痩せたよね」って心配して声をかけたけど、Aはひたすら「大丈夫、大丈夫。ちょっとダイエットしてて」しか言いません。
Aが暗に「何も聞くな」というような頑なな態度を取るので、私もBもそれ以上問い詰められませんでした。

私達が会話している間、やばいものは、ずーっと隣のAの顔を見ていました。

やばいものというのは女の人で、白いワンピースを着ています。
長い髪が顔にすだれかかったまま、Aの顔を下から覗きこむようにじっと見つめているんです。
私がチラチラと見ているのには多分気づいているだろうけれど、とにかくAのことばかり見ていて、内心で「Aはこの女の人に一体何をしたんだろう…」と、飽きれてしまいました。
Aには無意識に人を怒らせるところがあるから、きっとこの女の人もAに対して怒っているんだろうなと思ってました。

私がこっそりと女の人を観察していると、Aが不意に「そういえば、隣人さんに聞いたんだけどね、このアパート曰く付きらしいの」と、言いました。
「このアパートは過去に一度、放火で一部の部屋が焼けたことがあって、その時に住人が亡くなったんだって。その時に亡くなった女の人の霊が、未だにアパートのどこかの部屋に出るらしいの」
「どこかの部屋？Aの部屋じゃなくて？」もしかしてAの隣に座ってる女の人が噂の幽霊じゃないかと思って問いかけたけど、Aは「あはは、それはないよ！だってこの部屋に住んでから一度も怪奇現象なんて起こってないもん」と、笑って返してきました。
そこでBが「そうなんだ、Aがあまりにも痩せてる…というかやつれてるから、Aがその幽霊に取り憑かれているのかもって思ってたけど」なんて、結構突っ込んだことを言ったら、Aが笑うのをピタリと止めて、真顔になったのです。
「あのね…、この部屋に幽霊が出たことはないの。だって部屋の中では一度も怪奇現象は起きてないし。隣人さんも、部屋の中では何も起きないって言ってたから」
「部屋の中では？じゃあ、他の場所では何かあるってこと…？」
「…家に帰って来る時にアパートの屋根に白い服を着た女の人が一瞬だけ見えたり、出かける時に誰かに呼ばれたような気がしてアパートを振り返ったら階段のところに同じ女の人がいたりとかはある。他の住人も同じような体験をしてるみたい。でもね、お祓いしたから大丈夫だと思う！」