人形の中を見てはいけない

数年前に田舎の祖母が亡くなりました。
庭の片隅には古めかしい土蔵があり、使われなくなったがらくたが詰め込まれています。

せっかくだしと大掃除もかねて土蔵の整理をしていた時、うなじのあたりに視線を感じました。
振り返った私が目にしたものは、土蔵の棚に飾られていた人形でした。

「おばあちゃんが子どもの頃遊んでた人形かな？」

亡き祖母を懐かしんで棚から取り上げた瞬間、人形の表情が動いたように錯覚しました。
ぎくりとした矢先に手が滑り、人形が落下します。

「やば～やっちゃった……あれ？」

床に叩き付けられた人形の首がとれ、頭がコロコロ転がっていきます。

しかし私の注意を引いたのは人形の中……首の継ぎ目から覗ける体内の空洞でした。

「ひっ！」

人形の体内にはびっしりとお経が記されていました。
生理的な気持ち悪さにあとじされば、コロコロ転がった生首が足元にあたり、目と目が合ってしまいました。

次の瞬間、人形がぐるんと白目を剥きました。

「きゃああああっ！」

ヒステリックな悲鳴を上げて土蔵から駆け出し、親を呼んで戻った時には、床に倒れた人形は消えていました。

あの人形は一体……
今もまだ土蔵の暗闇でかくれんぼを続けているのでしょうか……。