蛾が死ぬマンション

数年前まで暮らしていたマンションの話です。
そのマンションは明るく清潔で家賃も比較的安かったのですが、一点だけ困った事がありました。
エントランスホールで毎日のように蛾が死んでいるのです。

住人から苦情が殺到したのか、管理人さんも神経質なほど戸締りに気を付けているのですが、にもかかわらず蛾の大量死が防げません。

ここは住宅街のど真ん中、周囲には山や森もないのでどこから集まってくるのか謎でした。

「窓の隙間からもぐりこんでるとか」
「あんなにたくさん？」
「じゃあ玄関の自動ドアから……」

「出入りに便乗してたら気付くでしょ」

私たち夫婦の疑問は意外な形でとけました。
ある日買い物にいこうとしてエレベーターを下りると、お爺さんがビニール袋に入った何かを撒いている所に出くわしました。

「きゃあああっ！」

お爺さんがホールに捨てていたのは夥しい蛾の死骸でした。この人が犯人だったのです。

ただちに管理人さんに報告した所、そのお爺さんは一階に住んでる山田さんだと判明しました。

「もともとはここは山田さんの土地だったんだが、不動産屋にだましとられたと思い込んでるんだ」

契約に同意したはずなのに……と管理人さんは嘆いていました。

山田さんが施設に入れられると嫌がらせはやみましたが、彼がどこで大量の蛾を捕まえていたかは謎のままです。