懐中時計の錆の形
投稿者:上龍 (34)
短編
2022/01/28
12:02
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私の祖父は骨董品が好きで趣味で懐中時計を集めていました。私もよく見せてもらいましたが、なめらかな金色の蓋やガラスの文字盤、規則正しく時を刻む機械仕掛けの針には子供心に魅せられました。
ある時祖父が古い懐中時計を手に入れました。蓋は錆に覆われており、挙句針は止まっていて使い物になりません。年代物なのはわかりましたが、目利きの祖父が実用に値しない懐中時計を引き取るなんて珍しいと思いました。
遅くできた孫に甘く、お願いすれば大抵言うことを聞いてくれる祖父ですが、何故かその時計だけは触らせてくれません。
拒まれれば拒まれるほどむきになるもので、ある日学校から帰った祖父の目を盗み、書斎の引き出しに入ってる懐中時計を盗みました。
しばらくいじくり回していると、蓋の外側の錆が指の形をしているのに気付きました。
「なんだろこれ」
錆をこそぎおとそうと繰り返し擦れば、カチ、カチと音が鳴り出してびっくりしました。
なんと、壊れた時計が動きだしたのです。空耳を疑って文字盤に耳を押し付けた瞬間、カチカチがドクドクに変わりました。懐中時計から鼓動が響いているのです。
「うわあっ!」
私は肝を潰して自室に逃げ帰りました。その後反省して祖父に謝りに行くと、あの懐中時計は交通事故で命を落とした友人の形見なのだと教えてくれました。
祖父の友人は死ぬ間際も懐中時計を握り締めていたそうです。
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