夜中に訪れるモノ

友達が、私の家の近くで一人暮らしを始めたのですが、「家の様子がおかしい。怖いから泊まりに来て」と、言うのです。
どうやら夜中0時を過ぎたあたりに、玄関扉をノックする音が聞こえるのだとか。
何か話している声も聞こえるけれど、不明瞭なのと、近づいてしっかり聞くのは怖いのだとも言っていました。

私はその話を聞いた当初、友達のストーカーの仕業、つまり生きている人間のイタズラじゃないかと思っていたのです。
だから、友達の家に泊まって夜0時にノック音が聞こえてきた時もそれ程怖くなく、扉の前で相手は何を言っているのか確かめようと、玄関扉に耳をピッタリつけました。

「…て。…よ、…。あ…て…」コン、コン、コン、コン
断続的なノック音の合間に小さな声で何か言っているのが聞こえますが、上手く聞き取れません。

なので、「何？もうちょっとハッキリ言って」と、向こうに聞こえるように大きな声で言いました。
こうすれば相手がストーカーだった場合、逆にこっちに怖がってくれると思ったのです。
しかし、怖がるどころか相手はこちらが反応したことに喜んだかのように、更に声が大きくなり、ノック音も激しくなってしまいました。

「開けて！ママ！開けて！寒いよ！開けて！開けて！開けて！開けて！開けて！」ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！ゴンッ！

夜中にこんなに騒いでいるのに誰も注意しに来ない時点で「これは絶対に生きている人間じゃない」と思い、玄関から聞こえてくる子供の悲鳴のような声と激しいノック音を無視して、布団を頭までかぶって朝までやり過ごすことにしたのです。
朝になると昨夜のことは何もなかったかのように、静まり返っていました。
友達は「あんなに怖いものがやってくるならもうここには住めない」と言って、すぐに別の場所へ引っ越しました。
あの時、玄関扉を開けていたら、そこには一体何がいたのでしょうか。