〈電話には、それからも何度か出ています。一度だけ、受話器を取る前から向こうが切れていたことがありました〉
二冊を並べてみた。
表紙、特集記事、広告、ページ番号、紙質は同じだった。
異なる文章は同じ位置に収まり、周囲の罫線やページ下部の汚れには、二冊に共通する特徴があった。
違うのは、読者通信の二通目だけである。
文章が違うにもかかわらず、どちらも二十三行で、改行位置まで一致していた。
Mさんは、別版や増刷の可能性を否定した。
「第七号は一回しか刷っていません。途中で版を変える金なんかないですよ。版下も私が印刷所へ持ち込んで、そのまま三百二十部刷った。請求書も一枚です」
印刷所の名前は奥付に記載されていたが、すでに廃業していた。
その後、古書店から三冊目を入手した。
この冊子でも、読者通信の二通目が異なっていた。
投稿者名は「薄い壁」。
引っ越した部屋の押入れに、奥行きが十センチほどしかない区画がある。板を外そうとすると、隣の空室から同じ数だけ釘を打つ音が返ってくる。
文章は、こう結ばれていた。
〈隣は半年ほど空室です。大家さんには、壁を薄くした覚えはないと言われました〉
これも二十三行だった。
活字の種類、字間、段組み、改行位置は、ほかの二冊と一致している。
Mさんは三つの文章すべてに心当たりがないという。
編集部では、読者から届いた手紙に通し番号をつけ、大学ノートへ記録していた。第七号の制作期間に届いた投稿は十一通。その中に「屋根裏」「公衆電話」「薄い壁」は存在しない。
「投稿は全部、私書箱に届いていました。封筒を開けるのも、返事を書くのも私の仕事でした。読んでいれば、どれか一つくらい覚えているはずなんです」
残されていた封筒の一枚には、青いインクで小さな三角形の印が押されていた。
Mさんは、それについても覚えていなかった。
Mさん自身も、第七号を一冊保管していた。
完成後、編集部員一人につき一冊ずつ分けた保存用の見本だった。
ただし、取材当日には持参していなかった。
「どの記事が載っているか、確かめたことはありますか」
そう尋ねると、Mさんは少し考えてから答えた。
「昔、一度だけ見ました。でも投稿欄より、奥付がおかしかった」
後日、その冊子を見せてもらった。
読者通信の二通目には、「蛍光灯」という投稿者の文章が載っていた。


























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