*
弟を無理やり取り上げた母の手はザラザラしていて、母が何をしていたのか理解するのには充分すぎた。
口から遺灰を出し、吐き出させる。その行為が、また弟を殺してしまったかのように思えた。
吐き出させたそれは、流しに捨てるしかなかった。
仕方ないことだった。本当にごめんな。アキ。
母は疲れて寝てしまっていたが、俺の心臓はいつもより強く働いて、眠りに落ちるのを邪魔していた。
薄暗い常夜灯の明かりに照らされて、秒針が同じリズムを刻む。
思い出せるのは嫌に清潔な消毒液の匂い、
窓から見えた乾いた空、
あいつの顔は、真っ暗な穴が空いたように思い出せない。頭部をペンで黒く塗りつぶした人形みたいにしか、あいつの顔を思い出せない。
その声は、その匂いは、どんなものだっただろう。
ふと、秒針と少し違うリズムの音が聞こえた。
足音…だろうか。
「アキ」
「アキが来た。」
突然、母が飛び起きた。その後すぐに俺も飛び起きる。
「俺ならここにいるよ母さん」
「アキ」
「アキ」
母さんは寝室の扉に向かって歩いていってしまう。
「俺ならここにいるってば!」
母は俺なんて居ないかのように、突き進む。
無理やり手で押えても、老人とは思えない力で抵抗される。
「アキ、アキ」
【おかーさん】
扉の先から、声がした。
男とも女とも、子供とも老人とも違うような、
聞き馴染みのない、不気味な声。
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 1票























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。