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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

サエキヒロシ
長編 2026/09/02 09:41 108view

優しかった父親がそこにいました。少しやせ細っていたものの、その表情は穏やかに見えました。無言の対面、父親との思い出が否が応でも蘇る。
胸が張り裂けそうになるほど悲しかった。しかしどうしてか涙が出てこない。叫びたくなるほど苦しいのに、一向に涙が出てこなかった。

それもそのはず・・・。
横たわっていたのは、見たこともない、見知らぬ男だったからです。

「お母さん、これ誰・・・?」
動揺して振り返ったとき、そこには誰もいない。母親も、親族も、生活の物音ひとつしない。その刹那、 絶句する彼の右腕を冷たい手が掴みました。 振り返ると、死体だったはずの男が起き上がり、生気のない、醜悪な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「・・・・・・そこから、記憶がないんです。次に気づいたとき、私は『千葉県出身の徳田』という殺人犯として、刑務所の冷たい床の上に座っていました」

林さんは当初、徳田が精神を病んでいるのだと思いました。 しかし、調べていくうちに背筋が凍りついたんです。
本物の「徳田」という男は、粗暴で若くして喧嘩から殺人を犯したような、救いようのない男でした。しかし今、目の前にいる徳田はみすぼらしい格好こそしているが、言葉遣いや立ち居振る舞いに、育ちの良さから来る「品」が滲み出ている。 SNSも普及していない時代。千葉の粗暴犯と、大阪のエリート営業マンに接点などあるはずがない。

「入れ替わった・・・?」
20代の青年が、一瞬にして見知らぬ40代の受刑者に?
林さんはその後も調査を続けましたが、事態はさらに不気味な方向へ転がりました。 ある日突然、依頼主の徳田と連絡がつかなくなったのです。まるで最初からいなかったかのように、彼は忽然と姿を消しました。

徳田と連絡がつかなくなったあとも、林さんは暇を見つけては調査を続けていました。依頼を完遂できなかった自責の念もありましたが、この案件に興味が尽きなかったからです。

それから数年後、林さんは気になって行方不明者サイトを確認しました。“サエキヒロシ”の名前は、いつの間にか消えていました。 見つかったのか、あるいは・・・・・・。

それからも調査は細々と続けていましたが、サエキヒロシはおろか徳田を見つけることはついに叶いませんでした。

林さんは興信所を閉めることになったあと、大分のあの場所を再訪しました。更地になったその場所を眺めていると、古くから住んでいるという老人が声をかけてきました。その老人にここにあった民家について尋ねると思わぬ答えが返ってきた。
「ここかい? ここはずっと前から『商店』があった場所だよ。サエキ? いやぁ、そんな名前の一家なんて、この辺りには一度も住んじゃおらんよ」

林さんは、私にこう締めくくりました。
「あの日、私が大分で見た、あの『空き家』は何だったんでしょうか。私が聞き込みをして、サエキ一家の不幸を語ってくれたあの近所の人たちは、一体、誰だったんでしょうか」

サエキヒロシが夢で見た、父親の「来るな」という叫び。それは“故郷に来るな”いう意味だったのか。父親は何を知っていたのか。

そうして林さんが興信所を畳んですぐの頃、事務所を借りていたビルのオーナーから連絡を受けました。事務所宛てに郵便が届いたという連絡でした。受け取ったいくつかの郵便物のなかに、消印のない一通の茶封筒がありました。

宛名は手書きで『林様』。

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