想像力の敗北
投稿者:ねこきち (21)
空気の冷えきった晩秋の夕方、独りで下校していたときのことだ。
薄暗くひと気の無い竹藪を歩いていると、前方の地面に何かが落ちているのに気が付いた。
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僕らみたいに怪異やホラーが大好きでさ、ネットで怪談を漁ったり、投稿してる身からすると「一番怖いのは人間」ってフレーズ、もう飽きるほど目にしてきただろう?
同じように「これは本当にあった話です」って枕詞もさ、「えっ、こんな怖いことが本当にあったの?怖い!」と思うことはないよね。むしろ少し冷めてしまう。
思うに、怪談が好きな人の大部分は、僕と同じで実はオカルトに対して懐疑的なんだと思う。
科学者があまりにも都合の良すぎる検証結果に対して疑問を持つようにね。
いろんなつじつまをあわせるのに、「人間が一番怖い」はとても便利なんだ。
実際に人間が怖いのは毎日テレビのニュースでも報じてるし。
怖い話、不思議な話が大好きだから、毎日毎日新鮮な恐怖を求めているのに、疑り深いからそこに粗や矛盾を見つけてしまうと、スッとワクワクが消えてしまう。
勿論、その話を教えてくれた(敢えて「創った」とは言わないよ)人に敬意を表して、口に出したり無粋なコメントを残したりはしない。
ただどうしても残念に思ってしまうんだ。そして、結局怪異なんてものは創作なんだって、ある種のペシミズムに陥ってしまうんだね。難儀な性格、自分勝手なことはわかってるよ。
極端な話「これは俺の作った話なんだけど」と断りを入れられてるのにも関わらず、ゾッとするような話が僕は好きだ。
こんなに気味の悪い話を、想像力(創造力)で一から作ることの出来る作者の脳味噌はどうなっているんだ?と、敬意さえ抱いてしまう。
これは僕がいつしか作り出した一種の予防線と言うか、卑屈な逃げ道なのかも知れない。
この世には実際には怪異なんて存在しない。所詮は全部人が創ったものなんだという、諦めだ。
そんな僕でも、「本当にあった話」に打ちのめされて参ってしまうことが稀にある。冒頭の竹藪の話は、僕の妻が子供の頃に体験した「実話」なんだ。
果たして地面には何が落ちていたと思いますか?
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空気の冷えきった晩秋の夕方、独りで下校していたときのことだ。
薄暗くひと気の無い竹藪を歩いていると、前方の地面に何かが落ちているのに気が付いた。
それは直径20センチ程の新品のホールケーキだった。
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…これだけの話だ。
変な話ではある。だが正直妻から最初に聞いたとき、僕はシュールだなーと思ったが、怖いとは思わなかった。
想像してほしい。自分以外誰もいない竹藪の中にポツンと落ちている、食べられた痕跡もないケーキ。
僕は怖いどころか、少しギャグっぽいなとさえ思った。
この話を聞いた数年後、妻の地元に行く機会があったんだ。
西日本にある田舎の町だ。そこで夕暮れ時に車を運転している途中、妻がふと「あ、ここだ」と言って道路脇をチラリと見たんだよ。
妻の目線の先にあったのは、ひと気のない鬱蒼とした竹藪だった。
作り話と断り入れられても尚且つゾッとする話が好きってめっちゃ共感