私は趣味でよく海に行く。
と言っても釣りに行くわけではない。海岸に転がるシーグラスや貝なんかを収集するのだ。
その日は自宅から車で一時間ほどの浜辺に行った。
休日の東京湾は南に昇った陽の光を反射させ金色に輝いているが、まだ肌寒い季節で人はまばらだ。
その煌めきと静けさのギャップが心地よかった。
早速私は波が寄せては引く海岸線を歩きながら「獲物」を物色し始めた。
しばらく歩いていると、濡れた砂に半分埋もれたガラス瓶が目に留まった。
手を伸ばして拾い上げると、それは古いものに思えた。ラベルは剥がれ落ちて久しいようだが、形からして錠剤を入れるような薬瓶に見える。キャップは錆びついているものの、中には濡れを免れたらしい四つ折りになった紙が二枚、窮屈そうに収まっていた。
所謂ボトルメールというやつだろうか。私は好奇心に勝てず、固くなった蓋をこじ開けた。
一枚目の紙を広げる。
海水がわずかに染みたのか、青いインクは滲んでいたが、辛うじて判読できる文字が並んでいた。
そこには、ある男の絶望が綴られていた。
共に起業した仲間に裏切られ、築き上げた事業が霧散したこと。それをきっかけに信頼していた友人や家族が次々に自分から離れていき、ついには独りになってしまったこと。
『生きていくのが、ただただ苦痛で仕方ありません』
震えるような筆致で書かれた独白の最後には、こう締めくくられていた。
『もしこの手紙が拾われることがあれば、どうか愚かな私の冥福を祈ってほしい』
勝手なものだ、と私は独りごちた。見ず知らずの他人に、自分の死後の祈りを押し付けるなんて、随分と馴れ馴れしい。気の毒だとは思うが、そんな独りよがりな性格だから、周囲に見捨てられたのではないか。
一枚目の紙を濡れた砂の上に落とすと、二枚目をゆっくりと広げる。
その瞬間、酷い生臭さが鼻を突いた。
一枚目の時には全く感じなかった、磯臭さに混じった肉の腐ったような腐敗臭。
思わず胃の奥からせり上がるものを感じて、私は眉をひそめた。
悪臭に目を細めながら、私は紙に視線を落とした。
そこには、赤いインクで、たった一言だけ書き殴られていた。
『死ななければよかった』
私は思わず二枚目も砂浜に落とした。
金色の陽光に照らされた波打ち際が、私を誘うように寄せてくる。
眩い浜辺とは逆に、沖の方に行くにつれ水の色はどす黒く、空には灰色の雲が立ち込めていた。
私は逃げるように車へ向かった。二度と後ろを振り返ることなく、その日は海を後にした。

























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