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妖怪・風習・伝奇

礎吽亭雁鵜さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

有砂橋事件・事故ファイル2 A川渓流下り船転覆事故
長編 2026/09/05 19:45 180view

東京で働いている私のところに急に母から「来週叔父さんが東京観光に行くから晩御飯でも案内してあげなさい、あんたお店とか詳しいんでしょ?」との指令が飛んできた。

普通ならこんなもの仕事を理由に断るのだがあの叔父さんなら話は別だ。
今年の新年会で私は叔父さんが警察署長時代に様々なお化け案件をまとめた有砂橋事件・事故ファイルというものを管理していたことをとっておきの日本酒と引き換えに口を滑らせることに成功していた。
しかし真に重要なそのファイルの中身の事件についてはまだ聞けていないのでなんとしてでもこの機会に聞き出したいものだ。

ちょうど予約半年待ちの寿司屋を接待用に予約していたが先方がインド工場でのトラブルの後始末のために急遽インドに発つことになってしまったために行くあてがなくなってしまっていた。
この権利を誰かに譲ろうかと社内で募集をかけようと思っていた矢先なので非常にタイミングが良かった。
美味い料理と酒を何よりも愛する叔父さんならきっと気に入ってくれるに違いない。

当日叔父さんは予約時間の15分前に来た私より早く店の前にいた。どれだけ楽しみだったんだろう?

個室に案内された私たちは早速飲み物を注文する。私は生ビール、叔父さんは日本酒リストを目を皿のようにしてこれはというものを選んでいた。

「こんな良さそうな店よく知ってるなぁ。流石に東京で働いてるエリートは違うな。」
「エリートじゃねえし。それにこんな高い店普段は接待でしか来ないよ。でも今日は『特別に叔父さんのために』予約したんだからね。」
「いやぁ孝行な甥を持ったもんだ。」

などとたわいのない話をしていたら次々と料理が運ばれてくる。
ここは純粋に寿司のみを楽しむこともできるけどコースでお願いすれば料亭のようなメニューを楽しむことができる。
叔父さんも「ああ、これは美味いなぁ、これも美味いなぁ」と大変ご機嫌であった。
私自身は料理に詳しい訳ではないため何を自分が食べているのかも良くわかっていないが叔父さん曰くとても趣向の凝ったものばかりらしい。

さて、いい感じに叔父さんが酒が回り始めたころを見計らって切り出す。
「ねえ叔父さん、この前の有砂橋ファイルの中の話を聞かせてよ。」
「前にも言ったがあれは機密事項だから・・・そうはいってもこんなにももてなされちゃあなぁ。
そうだな、話せるやつを1つだけ話してやろう。当時新聞にも載った事故だからまあいいだろう。」

「これは確か昭和40年代ごろの事故だったかな。
とある川、A川とでもするか、そこの観光客向けの渓流下り船で転覆事故があったんだ。
運良く死人こそ出なかったが一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれないくらい危険な事故だったらしい。

表向きの事故の原因は船頭が櫂を落としてしまい操舵不能になり船が岩に激突し転覆ということになっている、実際新聞にもそう書かれた。

ただ事故に遭った当事者や船頭などの発言と捜査で明らかになった事実に矛盾することがあったんだがそこは公開されずそんなことはなかったことになった。

船頭や乗船していた客からの聞き取りを総合すると
船が出航して5分ほど経った頃、突然1人の男の子が癇癪を起こして暴れ出した。
見た目的には幼稚園程度の子で船頭の漕いでる櫂を自分も持ってみたいと船の上で地団駄を踏んで騒ぎ出した。
あまりにひどくて暴れるのとちょうど流れが緩くなる箇所だったため船頭はちょっとだけだよと櫂を男の子に手渡したそうだ。」
「信じられない危機管理意識だね。」
「まあ、大らかな時代だったんだよ。
で、その男の子は櫂を受け取るやいなや櫂を川に放り投げてしまった。
呆気に取られた船頭だが、さらに異変に気付いた。川は変わらず緩やかなのに船が異常なまでに激しく揺れ始めた。
その時の揺れはまるで何かが意思を持って船を傾けようとするようなとても不自然なものに感じたそうだ。
船頭が手をこまねいていると一際大きく船が傾き一気に転覆、乗員全員が川に投げ出されてしまった。
ただ運良く転覆した場所は流れが緩やかな箇所で乗客全員がちゃんとライフジャケットを着ていた、そのおかげで全員がなんとか岸に自力で上がることができたんだ。

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