A先輩も、恐る恐る目を開く。
俺と目があって、A先輩の緊張した顔がほぐれた。
笑顔になったA先輩が何か言おうとした時、表情が固まる。
A先輩の目がだんだん見開いていく。
先輩の目は、俺を通り越して、トイレの出入り口あたりで固定されていた。
何かを、見ている。
しかし物音はしない。ただ、何かがいる。
俺は生唾を飲み込んで、ゆっくりと振り返った。
どす黒い空間だけが広がっている。
何もない。
その瞬間、俺の後ろから
「ギュッ」
と音が鳴る。
咄嗟に振り返ると、そこには椅子しかない。
あるはずの先輩の姿がどこにもない。
「……先輩?」
返事はない。
俺はスマホのことを思い出して、録画を停止して、動画を再生する。
A先輩が映る。画角に入っている俺がハケて、しばらくした後、A先輩の表情が変わる。俺が後ろを振り向いた時の物音が聞こえる。
ここだ。
突然、A先輩の口が大きく開かれる。大きく、大きく、口の端が切れ始め
ついに顎だけを残して上半分の顔が後ろに倒れる。
「ギュッ」
同時に、体が真ん中から縦に裂け、ちょうど体内が「捲れる」ような格好で、椅子の裏に消えていった。
それらが全て3秒ほどで行われた。
そこには、血の一滴すら映っていない。
動画の中で、俺が先輩を呼ぶ声がする。
先輩はもういない。
そう思った。
とにかくこの場から逃げなければ。
トイレの出入り口を見る。顔はもう見えない。
スマホと三脚を回収し、おそるおそる廊下へ出る。
何もいない。
俺は一目散に廊下をかけていった。階段を登り、廃ホテルの出口を目指す。
あまりにあわてて走ったので、あちこちぶつかったが気にもせずに、走った。
車に飛び乗り、鍵を閉めたところで、ようやく落ち着いて状況を整理することができる。

























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