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不思議体験

名無しさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

体重五百キロ
短編 2026/06/28 18:53 57view

 五百。
 表示された数値に私は目を見開いた。
 体重計から降りて、もう一度乗る。数字は優に百を超え、結局先ほどと同じ数値を指し示す。
 は。
 私はあんぐりと口を開けた。一糸纏わぬ姿のままその場に固まった。何となくそんな自分が間抜けな気がしたので、下着を身に着け、足で体重計を再起動する。そして、また乗った。
 五百.一。
「なによ、これ」
 昨日まではまともだったはずだ。それなのに、今日になって体重計が壊れてしまったらしい。思い当たる節はないものの、もう一年近く使っている体重計である。寿命だとしたら随分と早い気もするが、機械というのは往々にして予期せぬ不具合を起こすものだろう。私は深いため息を吐いた。
 不具合と認識してからはその数値が滑稽に思えた。故障したとは言え、五百という現実離れした数字に笑いが込み上げた。表示されるということは、メーカーが五百キロの人間を想定しているということになる。いやもしかしたら、病気かなんかでそういう人間は実在するのかもしれないが稀だろう。
 私は体重計の電源を落とし、パジャマを着ると、脱衣場を出た。
 新しい体重計を買うべく、ショッピングサイトを携帯で開くと、そのままベッドへダイヴした。

五百十二。
 声にならない声が漏れ出る。
 私の中に芽生えたのは困惑というより、怒りであった。体重計のうえで地団駄を踏んでやりたい気分になる。頭を振り、一度体重計から降りる。足の親指で、電源を落とし、また入れる。零が表示されるのを確認してから、両足を乗せた。
 五百十二。
 表示された数字は変わらなかった。
「どういう…こと?」
 あり得ない。買い替えた体重計は丁度、今朝届いたものである。新品を買ったはずだし、見るからに足元の機械は真新しい。不具合なのだろうが、二機連続で同じような、しかも桁違いの数字が表示される不良などあり得るだろうか。天文学的な確率のように思う。
「私の一万円返せよ」
 私は足蹴にした体重計に向かって毒づいた。乱暴に電源を落とすと、脱衣所から去った。

 五百三。
 最早、怒りを通り越して呆れた。
 これでもう五台目である。私の部屋の押し入れには捨てた初代を除いて、計三台の体重計が重ねられている。
 すべての体重計が指し示す数値は概ね一緒であった。十と一の位が違うだけで、すべて五百代である。
 風呂上りということもあってか、軽い眩暈がした。斜め横の鏡に目を遣る。自分の裸体が映っている。食生活は気を付けているし、週三回のジムも欠かさずに行っている。そのおかげで、ウエストは引き締まっているし、腹部には仄かに腹筋が浮き出ている。自分で言うのもなんだが、スタイルは良い方だ。職場の同僚にも羨ましがられる。
 五百キロなどあるはずもない。私は無機質な物体に馬鹿にされているような気分になった。私のすべての努力を踏みにじられているような心地である。
 メーカーに文句でも言ってやろうかと思ったが、その場面を想像して一気に気持ちが萎む。あまりにも馬鹿馬鹿しく、私が辱められるだけだ。友達に相談しようとも思ったが、同じ理由で止めた。
 やり場のない怒りがふつふつと胸の内で燃え滾る。その中には正確な体重を知りたいという欲求もあった。
 私は服を着てからベランダに出た。室外用のサンダルを履き、煙草を一本取り出す。火をつけようとした瞬間、怒りのせいで手元が覚束なかったせいか、ライターがするりと手から落ちた。反射的に手を伸ばし、キャッチしようとする。その弾みで、体が柵に乗り上げ、半身が外へ飛び出す。
「あ!」
 そしてそのまま私の身体は傾いた。足を宙でばたつかせるが、まったくの無意味で、虚空を蹴るだけだった。まるでシーソーのように体が傾いていき、やがてずるりと全身が外へ放り出された。
 暗闇の中、私はマンションの十二階から転落した。

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