先輩さんの家を飛び出した山下さんは、しばらく夢中で走り続けた。
夜の住宅街を駆け抜け、気が付けばかなりの距離を離れていたという。
だが、そこでようやく足の裏に痛みを感じた。
靴を履いていなかった。
慌てて立ち止まり、手に持っていた靴を履く。
呼吸を整えながら辺りを見回した。
暗い。
静かだ。
人もいない。
その事実に、再び恐怖が込み上げてきた。
とにかく明るい場所へ行きたい。
そう思い、駅前のコンビニへ向かった。
始発まではまだ時間がある。
コンビニで時間を潰そうと思ったのだが、その頃はコロナ禍だった。
長時間店内に留まることはできない。
結局、山下さんは駅前の街灯の下で始発を待つことになった。
寒かった。
だが、暗い場所へ行くよりはずっと良かった。
空が白み始めるまで、ほとんど眠れなかったそうだ。
そして始発電車に乗り、自宅へ戻った。
ようやく家に着いた。
安心できるはずだった。
だが――。
無理だった。
玄関を開け、部屋に入り、電気をつける。
それでも駄目だった。
一人でいることが怖い。
狭い部屋が怖い。
壁に囲まれた空間そのものが怖かった。
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