これは、私の看護師の友人が、新人の頃に体験した話です。
仮に、Aさんとします。
新人だったAさんが、勤めていた病院で初めて夜勤を担当した日のことです。
深夜の巡回で4人部屋に入ると、佐々木さんという70代の男性患者が、ベッドの横に椅子を一脚置いていました。
普段、そこに椅子はありません。
佐々木さんは腎臓に問題を抱えており、長期入院をしていました。
最近は少しずつ容体が悪くなっていて、Aさんも何度か担当していたそうです。
Aさんが、
「まだ寝ないんですか?」
と声をかけると、
「もうすぐ来るんです」
と佐々木さんは答えました。
「こんな時間に面会ですか?」
佐々木さんは少し笑って、
「はい。……順番なので」
と言いました。
その言葉の意味が、Aさんには分かりませんでした。
年齢のこともあり、少し認知機能が落ちてきているのかな、としか思わなかったそうです。
その夜は、それ以上何もありませんでした。
それから、佐々木さんの容体は少しずつ悪くなっていきました。
そして夜になると、決まってベッドの横に椅子が置かれていました。
理由を聞いても、佐々木さんはいつも、
「来たら分かりますよ」
そう言って笑うのでした。
以前、Aさんが、
「早く元気になって退院できるといいですね」
と言ったことがありました。
そのとき佐々木さんは、
「私はもう、十分ですよ」
と答えたそうです。
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