『 嘘 』
私はそれを見て全身が粟立(あわだ)った。彼女は———片ノ葉さんは———あの「箸捧」をやっていたのだ。
五
「…片ノ葉さん」
「何ですか?」
「嘘ですよね」
「え?」
「箸捧をやった事が無いのも、結婚してここに引っ越して来たのも、夫と離婚してるのも、全部嘘だろ。お前、人を呼んで何してるんだ?凸撃心霊なんちゃら言う番組の人等に何をしたんだ。」
珠香はメモ帳とペンを鞄に入れて、片ノ葉さんを問い詰める。
「…それを言ったら、あなただって嘘を吐いてるじゃないですか。『水神珠香』さん。」
「…じゃなきゃ、私等を家に入れなかっただろ。オカルト信者。」
私は二人の会話を呆然と見る事しか出来なかった。とその時、珠香が片ノ葉さんの飲んでいたお茶に念を込めているのが判った。
「まぁまぁ、喧嘩はやめましょう!話しますから」
割とすんなり話してくれるようだ。片ノ葉さんはずっとへらへらと笑っている。
「私が何故、人を来させようとするのか?そんなの決まってるじゃないですか!ここを、子供にとって安全な場所にする為ですよ!私、番組で言いましたよね。『風習さえ守れば安全な場所』って!ここで子供の事故を減らすには、それなりの『身代わり』が必要なんです。当たり前ですよね?無くなる筈のモノが無くならなかったら、別のモノが無くならなければいけない」
片ノ葉さんはまだへらへらと笑ってはいるものの、目は虚空(こくう)を見つめ、笑っていなかった。
「何を言ってるんだ。」
「つまりはこういう事です。ここの風習は、子供を生かす代わりに他の人を『身代わり』にする。そして七つになった子供に、親の血を付けた箸で『身代わり』の血が入ったご飯を食べさせるんです。」
「…で、身代わりにも子供の親の血を付けた箸で食事させるんだろ。」
「流石(さすが)、『超』霊能力者 水神珠香 さん。テレビで見た時も、何でも言い当ててましたもんね!」
「はぁ…私はテレビでも言った筈だが霊能力者ではない。ただそういう勘がずば抜けて鋭(するど)いだけだ。あと、テレビの事もあんまり信じるな。」
珠香は過去に何度かテレビに出ている。雑誌の記事にも多少載った事があるようだ。珠香自身はあまりそういった物に載せられるのは好きじゃないようだ。
「そうですか。あ、そういえば、近所の双子の子供が、この前七歳になったらしいですよ!」
「はぁ…」
珠香がため息を吐く。
「『ご飯』、食べて行きますよね!」
片ノ葉さんは立ち上がり、お茶の入った湯呑みを持ち上げようとした時。
「バリンッ!」
湯呑みが割れる、というより爆発するように砕けた。割れた時に熱いお茶が片ノ葉さんの手に掛かる。
「あつっ!」
その隙に珠香が立ち上がり、小さな瓢箪に入った水を片ノ葉さんに掛けた。
「痛っ、熱い!」
もちろんその水は冷たいのだが、片ノ葉さんは床に横たわって苦しみ始めた。珠香は瓢箪を鞄に戻し、玄関へ歩いていった。私は珠香の後を追う。
「ちょ、片ノ葉さんの事いいの?」
「仕方ないだろ。こうでもしなきゃ私等が『身代わり』にされるぞ」
私達は片ノ葉さんの家を出て、見代塚区域の外へ向かった。

























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