それから毎晩、俺が寝入ると、四階の住人は俺の部屋に降りてくるようになった。
最初は物音だけ。
次に、俺の布団の端が少しだけめくれる感覚。
そして、ある夜、はっきりと耳元で囁かれた。
「……コーヒー、冷めちゃったよ」
声は若い女の人のものだった。
震えながら電気をつけると、部屋の真ん中にマグカップが置かれていて、中に真っ黒な液体がなみなみと入っていた。
湯気は立っていない。
でも表面が微かに波打っている。
俺はもう限界だった。
大家に直談判に行った。
大家はため息をついて、こう言った。
「あの娘は四階に住んでた子でね。増築のときに天井を落とす工事中に、部屋に閉じ込められたまま忘れられたんだ。
可哀想に、コーヒー飲みながら待ってたんだろうね……」
俺は震える声で聞いた。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
大家は薄く笑って答えた。
「簡単だよ。君が四階に上がって、コーヒーを一緒に飲んであげればいい。
そうすれば、彼女も満足して下がってこなくなる」
その夜、俺は布団の中で必死に目を閉じていた。
すると、天井がゆっくりと開いていく音がした。
ギイ……ギイ……。
暗闇に、四角い穴がぽっかりと浮かんでいる。
そこから白い手が垂れ下がってきて、俺の布団を掴んだ。
「……ねえ、上がってこないの?」
今、俺はキーボードを叩いている。
部屋の天井に四角い穴が開いたまま、
マグカップが二つ、俺の机の上に並んでいる。
一つは俺のもの。
もう一つ、底に黒いカビのついたやつ。


























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