うちの古いアパートは、築五十年の木造二階建てだ。
でも、大家さんはいつも「この建物は三階建てなんだよ」と笑う。
エレベーターなんてないし、二階の天井を見上げても明らかに屋根がある。住人たちも「大家のボケだろ」と笑っていた。
俺は二階の端の部屋に住んで二年になる。
夜中にふと目が覚めると、上の階から「トン、トン、トン」と規則正しい足音が聞こえることがある。
三階なんてないはずなのに。
最初は大家のジョークか、屋根裏に野良猫でもいるんだと思っていた。
でも、ある雨の夜、足音が止まらなかった。
しかも、俺の真上をゆっくり歩き回っている。
気になって二階の廊下に出ると、隣の部屋のおばさんが青い顔で立っていた。
「あんたも聞こえてるの? 四階の音……」
おばさんは震える声でこう言った。
「うちの部屋、昔は四階だったのよ。大家が昔、建物を増築したときに、上の階を潰したんだって。でも、住んでた人はいなくなったまま……」
俺は笑い飛ばした。
でもその夜から、足音は毎晩のように聞こえるようになった。
しかもだんだん、ただ歩くだけじゃなくなった。
ある夜、足音の合間に「カタン」という小さな音が混じった。
椅子を引く音だ。
次に「チャリチャリ」と、スプーンでカップをかき回す音。
誰かが真上でコーヒーを飲んでいるような……。
俺は耐えきれなくなって、管理会社の人間を呼んだ。
業者は屋根裏を調べたが、何もいなかった。
ただ、埃の中に古いマグカップが一つ、ひっくり返って転がっていただけだった。
底に黒いカビのようなものがこびりついている。
それから一週間後、俺は夜中に喉が渇いて起きた。
冷蔵庫の水を飲もうとキッチンに行くと、シンクの上にマグカップが置いてあった。
俺のじゃない。
底に同じ黒いカビがついている。
慌てて捨てた。
次の朝、また同じ場所に同じマグカップがあった。

























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