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心霊

匿名奇望さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

空の穴
短編 2026/05/24 21:35 235view

オカルト雑誌の記者という仕事をしていると、日常の裏側に潜む「澱み」のようなものに敏感になります。ですが、先日再会した旧友・Mがもたらした「澱み」は、私の想定を遥かに超える異様でした。

その日は抜けるような青空だというのに、待ち合わせ場所に現れたMは、真っ黒な傘を深くさしていました。
一見、不格好な日傘かと思いましたが、近づいて息を呑みました。それはビニール傘の表面にアルミホイルを隙間なく貼り付け、その上から油性マジックで塗りつぶした、手作りの「遮光傘」だったのです。
「頼む、中に入ろう。……どこでもいいから、屋根のあるところへ」
Mはうつろな目で周囲を見渡し、近くの喫茶店に私を引っ張り込みました。
入店するや否や店員に「窓際は絶対に嫌だ」と詰め寄った彼は、店の一番奥、窓から最も遠い席を確保すると、ようやく傘を閉じました。それでも彼の肩の震えは止まりません。
私はコーヒーを二つ注文し、本題を切り出しました。
「一体どうしたんだ、その傘は。何があった?」
Mは憔悴しきった顔で、ぽつりぽつりと話し始めました。

きっかけは高校時代にまで遡ります。

ある日の授業中、何気なく窓の外を眺めていたMは遠くの空に、黒い鳥が浮かんでいるのを見つけました。
特に気にすることもなく教室に目を戻したMでしたが、その黒い鳥は次の授業も、その次の授業も、Mが外を見るたびに必ず同じ場所を飛び続けていました。
そこで彼は、ある違和感に気づいたといいます。

「鳥なら、羽ばたくか、風に乗って移動するだろ? でも、それは違った。空の一点に、まるで釘で打ち付けられたみたいに、ぴったりと静止していたんだ」

その日から、その影を観察するのが彼の密かな日課になりました。
観察する、と言っても微動だにしないので、ただただ眺めるだけでしたが。
空中で静止できる生き物はハチドリやトンボくらいだとテレビで知ったとき、彼は初めて言いようのない恐怖を覚えたそうです。あの鳥は、それらよりずっと大きく、そして、あまりにも黒かった。
彼はそれ以来、空を見ることを避け、普通の生活を送ろうと努めました。
けれど、ある休日の午後。魔が差したように、ふと自室の窓から空を仰いでしまった。

「気づいたんだ。あれは鳥なんかじゃない。空に開いた**『穴』**なんだって」

歪な形をした、漆黒の穴。
それが空というキャンバスに、ぽっかりと穿たれている。
彼がそう悟った瞬間、全身総毛立ちました。しかし、本当の恐怖はそこからだったと言います。

「穴の向こう側で、動いたんだよ。……巨大な、二つの目玉が。ギョロって、はっきりと俺と目が合ったんだ」
その日から、Mは常にその「目」に見られている感覚に苛まれるようになりました。
あのアルミホイルの傘は、空からの視線を遮るための、彼なりの防波堤だったのです。

「お前、オカルトに詳しいだろ? 助けてくれよ。どうすればあの目から逃げられる?」
ガタガタと震える手でコーヒーを啜るMの姿に、私は背筋が凍るのを感じました。これは記者の好奇心で踏み込んでいい領域ではない。
「……知らない。そんな話、聞いたこともない」
私は短く答え、逃げるように店を後にしました。

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