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都市伝説

匿名奇望さんによる都市伝説にまつわる怖い話の投稿です

ラッドキング
短編 2026/05/24 19:26 190view

先日、行きつけのバーで隣り合わせた男についての話です。

仮にK氏としておきましょう。彼はひどく落ち着かない様子でウヰスキーを煽りながら、ポツリポツリと、私にこんな「仮説」を語り始めました。

「……あなたは、『ラッドキング(鼠王)』という都市伝説をご存知ですか?」
それは、複数のネズミの尻尾が複雑に絡まり合い、解けなくなった状態を指します。
ネズミは本能的に、触れたものに尻尾を巻きつける習性がある。狭い場所で群生すると、稀にそれらが固結びのように絡まり、一つの巨大な、歪な生命体のようになってしまう。
その姿はまるで呪物のようで、古来より疫病、厄災、あるいは大量失踪の前触れとして忌み嫌われてきました。
「『ハーメルンの笛吹き男』も、あれは笛の音に操られたんじゃない。ラッドキングが引き金となって開いた『穴』へ、子供たちが吸い込まれてしまっただけなんです。……つまり、異世界へ引き込まれたんですよ」
K氏は震える手でグラスを回しました。
彼は、21年前に起きた『旭ヶ丘病院乳児集団失踪事件』も、本質は同じだと言いました。
赤ん坊には、握ったものを離さない反射がある。何らかの要因で複数の乳児が複雑に握り合い、重なり合い、一つの「個体」としての境界を失ったとき、異世界の扉が偶発的に開いてしまったのだと。

「そういった本能を持つ同一の生命体が、雁字搦めになって一つになる……。個の境目があやふやになった先に異世界がある」

K氏はかつて、この現実に絶望し、本気でここではないどこかへ行こうとしていたと続けます。
しかし、流石に乳児を集めるわけにはいかない。そこで彼は自宅で、おびただしい数のネズミを飼い始めました。
最初は失敗の連続でした。狭いケージに閉じ込めても、そう簡単に尾は絡まらない。
ケージの中では凄まじい勢いで繁殖が繰り返され、彼の部屋はネズミの鳴き声と臭気で埋め尽くされました。
けれど、彼は諦めなかった。
何世代にもわたる交配を繰り返し、ついに、生まれつき尻尾が絡まりやすい「異常な個体」を作り出したのです。
そしてある夜。
彼はついに、完成させたそうです。数十匹のネズミがのたうち回り、一つの肉塊と化した「ラッドキング」を。

……さて。

ここまで話を聞いて、皆さんは何か違和感を感じませんか?
『ラッドキング』の都市伝説も、『旭ヶ丘病院乳児集団失踪事件』も……。
そんな話、聞いたことがないでしょう?
検索したって出てきやしません。
それもそのはず。
これらはすべて、「K氏がもともといた世界」で起きた出来事なのですから。

「……ああ、いや。今の話は全部、冗談ですよ。私の創作です」
ハッと我に返ったK氏は、急に顔色を変えて立ち上がりました。彼は逃げるように会計を済ませ、夜の街へと消えていきました。
残されたバーのマスターは、彼が置いていった支払いを見て、深いため息をつきました。
「困るんですよね、あのお客さん。いつもイタズラで、おもちゃの紙幣を混ぜていくんですから」
マスターの指先にあったのは、見たこともない人物と文字が記された、紙幣のような「紙」でした。

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