その後、頭が真っ白になった俺に気を使ってくれてなのか、先輩のほうから色々話題を振ってくれてたけど、俺は生返事とかしかできなくて、ウイットに富んだジョークどころか、普通の掛け合いすらできていなくて、どんどん自己嫌悪ばかりが募っていく。
入店から一時間くらいして、「ちょっと外歩こっか」と席を立つ先輩。
数秒遅れて反応した俺は「あ、え? あ、はい」と慌ててほとんど口をつけてなかったコーヒーを飲み干す。
先輩は先だって店を出て、俺は後ろを着いていく。
もう完全にデートをリードしているのは先輩で、俺は言われるがままだった。
駅前の雑貨屋に行っても、やっぱり俺はポンコツで、先輩が不気味なぬいぐるみを楽しそうにいじってるのを見ても、はははと貼り付けたような作り笑いと乾いた笑い声を出すことしかできない。
服屋でもアウトレットの店でも同様で、俺は母親の買い物に連れられている子供みたいに、存在意義をなくしている。
そんな俺を見かねたのか、駅から少し離れたところにある小さな公園へと先輩は俺を誘った。
唯一のベンチはちょうど空いていて、「ちょっと休んでいこっか」と、先輩はちょこんと膝を揃えつつ両手を太ももの上に置き、なんとも可愛らしい動作で座る。
俺はその隣に腰を下ろすんだけど、「よいしょ」みたいに口走ってしまい、おっさん臭い感じを出してしまったことを恥じる。
でも先輩は全然そんなこと気にしてなくて、むしろ「ちょっと疲れちゃった?」と気遣ってくれる。
「い、いえ、全然」
「そっか。なんか杉崎くん、ため息ばっかりだし、つまんなそうだなーと思って」
そう言って、いたずらっぽく笑う。
きっと先輩は、俺が先輩のことをめちゃめちゃ好きだって知ってるし、でも、さっきも今もめちゃめちゃ緊張してるってことにも気づいていて、だからこそこんな風にちょっと嫌味っぽく意地悪なことを言って、俺の感情を、俺の本音を引き出させようとしてくれているんじゃないかってことに思い至った俺は、先輩の優しさを無碍にしないように、その案に乗っかる。
「いや、ほんとに――夢みたいで。なんか、先輩と一緒にいるってことがまだ信じられないっていうか」
ふふっと柔らかく笑ってから、「意外とさー」と、先輩は前置きしてから、俺の目をじっと見て言う。
「理想と現実って違うものだったりするんだよね。特に、理想が膨れ上がっちゃうとさ、その理想に現実が追いつけなくなっちゃう、みたいな」
「……それって、俺が先輩に理想を押し付けてる、みたいなことですか?」
「どうだろね?」
はぐらかすように先輩は空を見上げ、俺は否定するための言葉を探す。
でも、確かに先輩は俺の理想の女性で、理想が肥大し過ぎて、生身の先輩とはかけ離れてるのかもしれなくて、それって先輩に俺の理想の先輩であってくれみたいな、やっぱり押し付けっぽくもあるんじゃないだろうか。
それを先輩は見抜いていて、でも優しいから、俺を傷つけないようにこうしてデートに付き合ってくれてるんじゃないか。
こういう時、どうしたらいいんだ……。
恋愛経験皆無の俺には、見当もつかない。
ギャルゲーならやったことがあるけど、あんなの毎回褒めるか貶すかの二択みたいなもんだし、リアルな恋愛にはなんの役にも立たないことを思い知らされて、家にあるギャルゲーを処分することを決める。
……こんなくだらない、どうでもいいことは無限に頭に浮かぶのに、肝心の先輩に対するセリフはなに1つ出てこない。
結局公園でも先輩が色々と話題を振ってくれて、俺は答えるしかできなくて、色々訊きたいこともあったはずなんだけど、全部吹っ飛んでしまった。昨日は夜中まで今日話す内容を紙に書き出して、90個くらい話題も考えていたけど、完全に無意味だった。
その後サイゼリヤで昼ご飯を食べて、少しその辺をブラブラしてから、日が沈む前に解散する。
「今日はありがとね」と手を振りながら帰って行く先輩を眺めながら、俺は自分が如何にどうしようもない男なのかを実感する。

























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