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心霊

数多の心霊体験をしてきたさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

大工の怪奇体験談
短編 2026/05/02 10:54 39view

あの初詣の朝、境内に積もった新雪の白さに、俺たちはどこか救われたような気持ちになっていた。
住職に深々と頭を下げ、父の運転する(と言っても、ボコボコになった車はレッカーを呼び、代車の手配で散々苦労したが)車で帰路についた。だが、あの時、住職が去り際にボソッと呟いた言葉が、ずっと耳の奥にこびりついて離れなかった。

「……境を出れば、また『あちら側』の理が始まりますぞ」

数日後、俺は仕事の関係で、以前取り壊しを担当した空き地の近くを通ることになった。
そこは、俺が高めの料金を設定して強引に壊した、あの「曰く付き」の家があった場所だ。
雪が降り積もるその更地の真ん中に、誰かが立っていた。
「……おい、嘘だろ」

ハンドルを握る手が震えた。トンネルにいた、あの長髪の女だ。
寒さで真っ白に染まった景色の中で、彼女の黒髪だけが、まるでインクをぶちまけたようにどす黒く浮き立っている。
彼女は、俺が更地にしたはずの場所の「玄関」があったと思われる位置に立ち、じっとこちらを見ていた。

俺は無視して通り過ぎようとした。だが、バックミラーを覗いた瞬間、心臓が跳ね上がった。
後部座席に、友人が座っている。
いや、友人の姿をした「何か」だ。そいつは、あの夜、友人がパニック状態で指差した時と同じポーズで、ゆっくりと窓の外を指差した。

「ねえ、次は誰を連れていくの?」

その声は友人のものではなく、何重にも重なった女たちの湿った声だった。
気づくと、俺は幹線道路を走っていたはずなのに、見覚えのあるあの「トンネル」の前にいた。
一月中旬の北海道の寒さのはずなのに、車内の温度計はぐんぐんと上がり、30°Cを超えている。
父が事故を起こしたあのカーブ。ガードレールの凹みは、つい数日前の生々しい傷跡を晒している。

俺は車を止め、導かれるように外に出た。
雪の上には、俺のもの以外の足跡がない。

ふと、足元を見ると、雪の下から何かが突き出ていた。
それは、かつて大工職をしていた頃に使い古した、俺自身の「墨出し(直線を引く道具)」だった。

その墨から伸びた黒い糸が、トンネルの奥へと繋がっている。
糸の先には、父が、祖父が、そして友人が、まるで操り人形のように並んで立っていた。
「父さん! じいちゃん!」

叫びながら駆け寄ろうとした俺の足を、冷たい手が掴んだ。
雪の中から、無数の手が這い出してきた。大工家として代々壊してきた家々、鎮めてきたはずの土地の「記憶」たちが、俺を地面に引きずり込もうとしている。

その時、耳元で祖父のあの言葉がリフレインした。
「ソビエト……ソビエド……」
その本当の意味が、法を学び、論理的に物事を考えるようになった今の俺には、別の響きを持って聞こえた。

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コメント(1)
  • 怖いなぁ

    2026/05/02/10:55

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