それはロシアの国名などではない。この地方の古い方言、あるいは隠語で「ソビ・エト(削ぎ・得と)」……つまり、「すべてを削ぎ落として、己の得(業)とせよ」という、呪いの儀式の合図だったのではないか。
俺たち一族が代々、安く引き受けて壊してきたのは建物ではなく、その土地に溜まった「毒」を自分たちの体に削ぎ落とし、溜め込む作業だったのだ。
「……ひ、っ……!」
声にならない悲鳴が喉に張り付いた。
足元から這い上がってくる無数の手は、俺の作業着の裾を、肌を、氷のような冷たさで掴んで離さない。
「ここから先は……俺の、俺たちの……っ!」
言いかけながらも、膝がガクガクと震えて力が入らない。境界線を引くなんて大層なことは今の俺には到底無理だった。
「来るな! 頼むから、もう俺に関わらないでくれ!!」
なりふり構わず、俺は雪を蹴立てて走り出した。
背後からは、あの湿った笑い声と、雪を踏みしめる「大勢」の足音がピチャピチャと追いかけてくる。
心臓が破裂しそうなほど脈打ち、肺が凍るような冷気を吸い込んで痛い。
一度でも振り返ったら、二度とあっち側から戻ってこれない——本能がそう告げていた。
転びそうになりながらも、ただひたすら「今」という現実だけを目指して、俺は闇雲に雪原を駆け抜けた。
視界を埋め尽くしていた女たちの影が、猛吹雪の白に紛れて薄れていくのを感じるまで、俺は一度も後ろを見ることができなかった。
気がつくと、俺は自分の車の運転席で突っ伏していた。
エンジンはかかったままで、燃料計は空に近い。
結局、あの神社で一晩寝た後、俺の日常に何かが「混じって」しまったのだと思う。
今でも、法廷に立つ時、ふと傍聴席の隅を見ると、あの長髪の女が座っていることがある。
彼女は何もせず、ただ微笑んでいる。
まるで、俺がどんなに職を変え、名前を変えても、「あの家を壊した代償」を払い続けるのを、楽しみに待っているかのように。
俺が大工をやめた本当の理由は、「給料が良かったから」なんて格好いいもんじゃない。
本当は、「次に壊す家が、自分たちの家になる」という予感がしたからなんだ。
























怖いなぁ