奇々怪々 お知らせ

心霊

御室真代さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

死を嗅ぐ
長編 2026/04/06 09:05 343view

野良猫が俺の部屋で死んでた。

ほんの気まぐれで食べ物を与えただけだったのだが、やけによく懐かれてしまい、度々部屋に入れるようになり、最終的には窓から勝手に入ってくるまでになっていた。
あの野良猫は、両親の反対を強引に押し切って東京に来た俺にとっては、唯一の話し相手だった。何物にもなれない、甲斐性もない、空っぽな男が、同じく何物でもない、ただの野良猫相手に、愚痴や不満話を聞かせる。傍から見れば滑稽だったろうが、あの六畳一間には確かに絆があった。
だが猫は死ぬ前になると姿を隠すものだ。
猫が部屋に来なくなってからしばらくして、部屋の中で異臭がするようになった。腐ったキャベツにも似たような、なんとも形容しがたい独特な臭いだ。
あの頃は知らなかったが、あの異臭は死臭だと知った。タンスの裏に隠れていた腐敗した話し相手を見つけた時、俺の心は本当に空っぽになった。
それ以来、死の匂いに敏感になった。
*

*

*

あれから数年が経ち、母から久々に連絡があった。

親父が死んだ時以来だったか。『お父さんが亡くなった』とだけのショートメールには返信すらしないばかりか、
『お父さんの葬儀、終わったよ。』と、画面に追加されるのを待ち遠しくすらも思った。
親とはそんな関係だった。我ながら酷い息子だとは思っている。だが、親父には世話になった記憶も思い出も特には無い。別にあれで良かったのだとも思ってしまう。
だが、母はやはり別物なのだろう。
腹の底に沈殿していた罪悪感が、たった1本の電話で浮遊して舞い、気がつけば新幹線に乗っていたのだから、母の強さを嫌という程思い知らされる。全くもって厄介なことになってしまった。俺はまだ、親父の葬儀に参加しなかった事と、10年近く音信不通になっていた事の言い訳すらも思いついていない。
母さんの事は本当は大切に思っている。
でも、会いたくない。
矛盾した2つの感情に揺られながら、電車にも揺られた。感情も、脳味噌も、身体も。揺れに揺れていた頭に浮かぶは電話での母の言葉だった。

「母さんね、最期にあんたに会いたいよ。」

*

*

*

懐かしい玄関で久々に再開したその人は、まるで年老いた猫のようだった。艶やかだった髪は見る影もなくパサつき、見るからに櫛も通らなさそうだし、落ち込んだ眼孔から見える瞳には光がほとんど無い。
それなのに。
見た目がこんなにも変わってしまったのに。
「おかえり」と言う声の優しさはあの頃のままだし、
微笑みかけるその表情は、穏やかさそのものだった。

懐かしいリビングルームに腰掛けた時、明らかな異変に気がつき、思わず顔をしかめた。が、気にしないフリをして、暫しは俺の話をした。
他愛のない、実につまらない、俺のここまでの人生の話だ。1度口から出ると、洪水のように話は止まらなかった。
だが異変は気のせいでは無いらしく、話してる間も、時折嘔吐きそうになる。
なんとか堪えながら一通り語り尽くした後、頬を伝う水分を誤魔化すために、あの電話口での言葉の意図を聞いた。

1/5
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。