その日、俺はいつも通り家を出た。
特に変わったことはない、ただの平日の朝だった。
駅へ向かう途中、ふと違和感がよぎる。
「……あれ、鍵掛けたっけ?」
最近、こういう物忘れが増えてきた気がする。
ポケットを探ると、鍵はちゃんと手元にある。
でも、“掛けた記憶”が曖昧だった。
引き返すほどでもないか、と迷いながら歩いていると、
すぐ後ろから声を掛けられた。
「掛かってましたよ😊」
振り向くと、知らない女性が立っていた。
年齢は20代くらい、どこにでもいそうな、普通の人だった。
「え?あ、そうなんですか。ありがとうございます」
自然に礼を言って、そのまま歩き出した。
――でも。
数歩進んだところで、違和感が膨らんだ。
(……なんで分かるんだ?)
俺は鍵を掛けたかどうかを“独り言”で呟いただけだ。
彼女は、俺の家を見てきたように答えた。
思わず振り返る。
さっきまで後ろにいたはずの女性は、もういなかった。
人通りの少ない道だ。
曲がり角もない。
消えたように、いなくなっていた。
その日の夜。
帰宅して、ドアの前に立った瞬間、背筋が凍った。
鍵は――
掛かっていなかった。
ゆっくりとドアノブを回す。
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