悪夢の中でマドゥロは、自らの手に黒曜石の大きなナイフを握っており、目の前にいる手足を縛られ子供の胸を一突きし、切り裂き、心臓を取り出してそれをアマルの神前である石でできたテーブルの上に乗せるのだ。手のひらの上で心臓が脈打ち、そのたびに鮮血が噴出した。
「思い出しただけで吐き気がする・・・」
マドゥロは悪夢に恐れおののき、青い顔をして頭を抱え込んだ。
「アマル」は、夢の中だけの存在ではなかった。
現に何度も狙撃やドローン攻撃等は未然に防がれ、国内の混乱に乗じて発生するクーデターなどもすべて未遂で終わらせてきた。この力がある限り、米軍さえも恐れる必要はなかった。
「なんでこんなことになったんだ・・・」
マドゥロは頭を抱えながら昔の事を思い出していた。
それは12年ほど前の2013年3月のこと。
当時、ベネズエラのカリスマ的存在であったチャベス大統領はガンと闘病しており、
キューバにて手術を受けた後、やっとの思いでベネズエラへ帰国してきた。
帰国してすぐにマドゥロと二人だけで密会をしている。
チャベスはもう、自分の死期が近いことを察知していたからだ。
チャベスは、これまで最もよく尽くしてくれた有能な腹心であったマドゥロに、大統領職を譲ろうと考えていた。国民にもそう指示したし、ライバルとなりそうなカベリョ副書記長にもマドゥロへの忠誠を誓わせた。すべては予定通りだ。
そして、最後のひと仕事として、チャベスは「神の遺産」をマドゥロに渡すことにした。
その日、密かに契約の儀式が執り行われた。
「地下世界の神『アマル』よ、これまでのご加護に感謝いたします。私の全身全霊を糧に、この男、ニコラス・マドゥロをお護りください!!」
ベッドに横たわったままチャベスがそう叫ぶと、彼の体は黒い霧に包まれ、やがてそこから影のようなものが浮かび上がった。コウモリのような羽を持った巨大なヘビの姿、それが自称「神」であるアマルの姿だった。
常人にはとても信じられないような光景が目の前で繰り広げられている。
だが、マドゥロはそれを受け入れた。
元々彼はカトリックの信者でありながら、超人的な力や神の力にあこがれを持っており、ヒンドゥー教の聖職者サイ・ババにも傾倒したことがある。そのためキリスト教徒でありながら輪廻転生も信じていたし、できることならサイ・ババの持つ超能力を自分のものにしたいと考えインドに渡ったこともある。
サイ・ババは日本でも本物の超能力者として一時話題となった人物だ。
永遠に水が湧き出る石、手から突然出現するビブーティと呼ばれる神聖な灰など、
不思議な現象が話題となった。
超能力者などというと、世間では何となく胡散臭い人物に思えてしまうが、サイ・ババは世界的に信者を持つようになると、高度医療を無償でできる病院や、学費無料の大学、南インドの干ばつ対策の水道事業など、国連とも連携して多くの慈善活動を行った人物でもある。
彼の作った施設は今でも国連の関連施設として活動している。
つまり、マドゥロの野望が入り込むような余地はなかったというわけだ。
そもそもチャベスがこの「神」をどこで手に入れたのかは分かっていない。彼は元々先住民インディオの血を引く人物であったし、キューバの諜報機関を使って南米全土で何か秘密の探索をずっと行っていたのは知っていた。おそらくそれと関係しているのであろう。
そうして、とうとうマドゥロは「神」を継承し、圧倒的な庇護を手に入れた。
・・・その代償が生贄として子供の心臓を捧げることであったとは・・・。
果たしてチャベスはそれをやっていたのだろうか・・・。


























Manaです。自分で書いてて一番楽しい、朽屋瑠子シリーズ。今回は今年初めに大事件の起こったベネズエラを舞台に、朽屋の活躍を描いたものなります。少年と絡むことで、オネショタ好きな界隈には受けたかもしれないですね。途中から登場のミゲル隊長は自分の中ではランバ・ラルのイメージです。
ところで、自分的に一番ショックだったのが、これを書いてる最中にアメリカがイランを攻撃しちやって大変なことに・・・せっかく最新の戦場を描こうとしたのに、もう古くなってしまいました。
現実の方が物語より早いし、そんなシナリオ描けません。
まさかトランプさん、エプスタインとかから目をそらしたくてこんなことしてんじゃないでしょうね~なんて思ったり。
一応物語はフィクションということで、お楽しみいただければと思います。
・・・それでは、チャオ。