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心霊

志那羽岩子さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

振り返らなかった夜
短編 2026/03/03 21:03 112view

これ、誰にも言ってないんだけど。

高校一年の夏、夜中に変なものに追いかけられたことがある。

あの頃の私はちょっとバカで、退屈で、何かやらかしたくて仕方なかった。
だからその日も、家族が寝静まったあとそっと自転車で家を抜け出した。

行き先は近所の中学校のプール。
女子更衣室って、どんな感じなんだろうって、ただそれだけ。
今考えると本当にくだらない。

夜中の一時過ぎ。田舎だから道は真っ暗で、車も人もいない。
タイヤの音だけがやけに大きく響いていた。
校庭の隅にある更衣室は校舎から少し離れていて、それだけで心細かった。

ドアは閉まっていたが、横の小さな窓を引いたらあっさり開いた。
建て付けが悪かったのか、鍵がかかっていなかったみたいだ。

中はじっとりしていて、古い木と湿気が混ざった匂いがした。
ロッカーは扉がなく、床にはすのこ。
想像していたような秘密は何もなく、ただの古びた空間だった。

少しがっかりして外に出た、そのとき。

遠くから赤い光が揺れた。パトカーだと思い、反対側の道へ自転車を走らせた。
そっちは街灯がほとんどなく、坂で、遠回りだった。

坂の途中に、小さな公園がある。息が上がって一瞬だけ立ち止まった。

公園の奥、ブランコのあたりに白っぽい何かがゆらゆらしていた。

煙みたいだが、風はないのに揺れている。
目を凝らすうちに輪郭が人に近づいていった。
足はない。なのに、近づいてくる。

動いたら、向こうも動いた。距離が確実に縮まっていく。
自転車を握り直して坂を下った。チェーンが軋む音と息が混ざって、ただ前だけを見ていた。

家に着くまで、振り返らなかった。
玄関のドアを閉めた瞬間、あの気配は消えた。家の中はいつも通りだった。

少し後に、公園のトイレが全焼する事件があった。
放火した人が、燃え上がる炎に向かって叫んでいたという。「消えろ」「来るな」と。

あの夜、私を追いかけてきたもの。
あれは私を追っていたのか、それともあの人のほうにいたのか……

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