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妖怪・風習・伝奇

青空里歩さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ラムネと祖父と限界集落
短編 2026/01/30 02:05 110view

あれを見たのは、年号が昭和から平成になって、数ヶ月経った頃だったと記憶している。
たしか旧盆の13日か14日頃だった(と思うが違うかもしれない)。

母から「祖父が急逝した、至急帰省してくれ。」との報を受け、電車に飛び乗ったものの正直気が滅入っていた。途中までは、帰省客でごった返していたが、俺の実家に近づくにつれ、人は、まばらになり、気がつくと、車内は、俺一人だけになっていた。実家は、超の上にどの付く田舎で、俗に言う限界集落の中にあった。とりわけ、俺の家、いや家族は、何故か周囲から浮いていた。「他所からの漂流者(ながれもの)」と揶揄され忌み嫌われていたのである。
登校はしていたし、あからさまな虐めらしきものはなかったが、友達はひとりもいなかった。
たいしてほしいとも思わなかった。
地域住民との交流もなく、流れる雲を目で追い、眼の前に広がる海を眺めながら過ごした。

ある夏の日、岩場に腰をおろし、ぼんやりしていると、祖父が冷たいラムネをくれた。飲み干したあとで、ラムネのガラスの玉を取ろうと躍起になっている俺の横で、「無理すんな。このガラス玉のように望んでも手に入らないものもあるんだわ。」祖父はそう言って目を閉じた。

俺は、おもむろに立ち上がり、カラになったラムネの瓶を腰かけていた岩に叩きつけた。
がっしゃーん

ガラスが四方に砕け散り、砂地に転げ落ちたガラス玉を手にした俺は、
「ほら。とれたじゃねぇか。」祖父に向かって投げつけるように言い放った。
祖父は、散らばるガラスの破片を、呆(ほう)けたような顔で見つめていたが、
「とれたんじゃねぇだろ。とったんだろ。無茶なことするなぁ。」
と嬉しそうにほほ笑んだ。

遠い昔のたわいのない出来事が、閉じ込めていた記憶の奥底から蘇る。
電車の窓から流れる雲を眺めていると、車内販売の声が聞こえてきた。
「冷たいラムネはいかがですか。」
「あ、ください。1本、いや2本。」

ラムネは、あの日祖父がくれたものと瓜二つだった。

電車とバスを乗り継ぎ、実家についた頃には、とっぷりと日が暮れ、辺りには人っ子一人見かけなかった。歩くこと30分弱。やっと集落のはずれにある実家にたどり着く。
家の前には、お悔やみ提灯の光が、暗闇を寂しく照らしていた。
家の中は、更にぼんやりとした蛍光灯の灯りしかなく、父と母の顔も心なしか生気がなかった。

奥の間に通され、横たわる祖父の亡骸を目にしたとたん、身体中の血の気が引いた。

祖父には、顔がなかった。
顔のない亡骸を、この地の人たちは、「あれ」と呼んでいた。
「あれ」を見たものには、災禍が及ぶと言われていた。
それが、今、俺の目の前にいる。

うわぁぁぁ

俺は、腰を抜かし、その場にしりもちをついた。ビジネスバックに忍ばせた2本のラムネが カチン、ゴトゴトと音を立て、畳の上に転げ落ちる。 

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