私が小学4年生の時に、父の転勤で母の代から生まれ育ったF県のとある町からI県へと引っ越した。
F県には友達や親戚も多かったから、その土地を離れる最後の日はかなり悲しかったことをよく覚えている。
父方の祖父母はかなり遠くの別の県に住んでいて、一緒に住んでいた母方の祖父母も、引っ越す1年ほど前に立て続けに亡くなり、それからは両親と私の3人暮らしだった。
F県とI県では新幹線や飛行機の直通便が無い事もあり、なかなかF県に帰ることは無かった。
ところが、中学3年に上がる時に両親が離婚し、私は母と一緒にF県へと戻ることになった。
母子家庭になり、困ったことがあれば近くの親戚を頼ることが出来ると母は考えたようだ。
元々住んでいた家は引っ越すタイミングで売却したのだが、親戚が近くの小さな空き家を見つけてくれて、運よくそこに住むことが出来た。
春休みのうちに引っ越しも終わって落ち着いた頃、4年ほど前まで住んでいたこの町が懐かしくて散歩をしたくなった。
この辺りは通学路だったり、友達の家に行ったりしていたからよく知っている。
確かに家が何軒か建て替わっていたり、新しいマンションが建ったりしているが、おおむね昔の記憶通りだ。
その一角に、1軒のアパートがある。
小学生の頃に同じクラスのKちゃんが住んでいたアパートだ。
時々一緒に帰っていたが、Kちゃんが住んでいた1階奥の角部屋には入ることは無かった。
Kちゃんが小さいころに親が離婚して、お母さんと二人でこのアパートに住むことになったという話だった。
まさか自分もKちゃんと同じような境遇になるとは当時は夢にも思わなかった。
アパートは築年数が30年、いや40年以上あるかという、木造2階建て8部屋というよくあるタイプだが、当時とはかなり様子が変わっていた。
2階へ上がる鉄製の階段は錆がひどく、所々崩壊し、黄色いロープで上がれないように塞がれていた。
建屋の周りやわずかな庭には雑草が無造作に伸びていて、まともに手入れがされていないことは明らかだった。
一見すると、誰も住んでいない、ただの廃墟にしか見えない。
以前は1階はもちろん、2階にも人が住んでいる気配が感じられ、おそらく満室か、それに近い状態だったはずだ。
しかし、たった数年でここまで荒れ果てるだろうか。
そろそろ家に戻ろうとしたとき、前から歩いてきた30代か40代くらいの女性に声をかけられた。
「あれ?あなた(私)ちゃんじゃない?」
「そうですけど…、あ、Kちゃんのお母さん?」
Kちゃんのお母さんとはそれほど親しくはなかったが、学校や地区の行事でよくKちゃんと一緒に活動していたからよく覚えている。
しかし、Kちゃんのお母さんはすっかり痩せこけていて、すぐにはわからなかった。
「久しぶりね~、元気だった?」
「ええ…、はい、最近、またこの町に戻ってきたんです。あ、そう、Kちゃんはどうしてるんですか?」
「Kは…もうこの町にはいないの。」
「…それってどういうことですか?」























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