「多分だけど、与兵衛は村人に殺された。だからこの話の後半部分は、村人みんなで示し合わせて創作でもしたのね」
「殺されたって、なんで・・・」
「少し考えてみればわかるよ。与兵衛は治水関連の仕事をしていた。村人にとって、水は命そのもの。もしその生命線を誰かに握られでもしたら?」
自分なら、いや誰であっても不安に陥るだろう。きっとそこには与兵衛による横暴な権利の主張もあったに違いない。
「そんな与兵衛を邪魔に感じた村人が、みんなで画策したのよ。それになんと都合がいいことか、与兵衛は村の守り神であるエミカカシを恨んでいた。これを使わない手はないと思ったんでしょう。村人はそれを利用した。」
「それで、疎水が完成して与兵衛がいらなくなったから」
「酒に薬でも盛ったんじゃない? 与兵衛が家に帰るまでもなく、村人みんなで殺した。なにせ宴会で村人はみんなそこに集まっていただろうし」
粗暴な人間だったとは言え、村の発展のために尽力していた与兵衛が、そんな形で殺されてしまったというのは不憫な話だと思う。彼は殺された時、きっと無念だったことだろう。だが・・・そこでひとつの疑問が思い浮かんだ。
「あれ、でも与兵衛の石碑があるって書いてあったよね。村人は与兵衛を嫌っていたんだから、こんな石碑を立ててあげるなんて少し矛盾してない?」
ミコはニヤリと笑ってこう答えた。
「村人が本当に恐れていたものはエミカカシじゃないってことだよ」
私たちの間にしばしの静寂が訪れた。
〇
「さっ、それじゃあいこっか」
ミコが立ち上がりながらそう言う。
「え、行くってどこに」
「そりゃあ、決まってるでしょ」
ミコが私を見据えて続ける。
「与兵衛の石碑にだよ」
脱いだコートを再び着て、家を後にする。先ほどまでいた、暖房の効いた自室がすでに恋しい。冬の空は空気が澄んでいて、星がいつもに増して綺麗に見える。
出かける私に母はただ一言、いってらっしゃいとだけ言って、何も聞いてこなかった。きっと、全部知っているんだろう。母には後でちゃんとお礼をしないといけない。
石碑はここからそう遠くないところにあるという。道を覚えているのか、ミコはすたすたと迷いなく歩いていく。私は改めて、この少女が不思議でならなかった。
「そういえば、なんだけど」
「ん、なに?」
「ちょっと気になるというか、いや月待さんには気になることがありすぎるんだけどさ」
そう前置きして私は続ける。
「わたしが見たあのカカシは一体なんなの?」
そういえば話してなかったねとミコは言った。























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