「おい! お前ら、なにしてる!」
反射的に立ち止まり、息を荒げながら振り返ると、男が一人、作業服にヘルメット姿で立っていた。
腰には無線機、胸には「山岳管理課」と刺繍の入った腕章。
「助けてください! 襲われたんです! 斧を持った木こりの男に!」
俺たちは半ば泣きながら説明した。
息も絶え絶えに、昨夜の出来事を途切れ途切れに話すと、男は顔をしかめて言った。
「……そんな小屋、この山にはないはずだがな」
「え……?」
「この辺り、全部うちの管轄だ。登山客も入れねぇ区域だし、木こりなんて何年も前からいない」
亮介と俺は、顔を見合わせた。
何も言えなかった。
俺たちはそのまま、管理人に連れられて山のふもとの事務所へと案内された。
古びた木造の建物で、中には無線機や地図、登山届の用紙などが並んでいる。
ストーブの上で湯気を立てるポットの音だけが、静かに響いていた。
「……もう一回聞くけどな」
管理人は腕を組み、俺たちの正面に座る。
「お前ら、本当に“木こりの小屋”を見たのか? 場所は? 時間は?」
「何度も言ってるでしょう!」
亮介が苛立ち混じりに叫ぶ。
「山の中腹あたりで、斧持ったおっさんに会って──泊まれって言われて……それで!」
俺は口を乾かせながら、できるだけ冷静に状況を説明した。
男の顔、声、斧の音、血の臭い。
あの地下室に続く扉のことも、全部。
管理人はしばらく黙り込み、目を細めて俺たちをじっと見つめていた。
嘘を見抜くような、鋭い目。
俺の心臓がドクドクと鳴る。
やがて、管理人は深く息を吐き、腕を組み直した。
「……お前ら、嘘ついてねぇな」
その言葉に、俺と亮介は思わず顔を見合わせた。
管理人の表情が、徐々に険しいものへと変わっていく。
そして、何かを思い出したように、低く呟いた。

























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