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呪い・祟り

どこかで見た話さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

萱津村
長編 2025/10/11 23:09 4,019view

私は静かな夜に、そっと声をあげる。
この話を語るべきか否か、長い間迷い続けた。
だが、今は違う。誰かが聴くことを望んでいるのだ。
信じなくとも構わぬ。
ただ、まだこの声が私のものであるうちに、書き残しておかねばならぬ。

私は郷土史を学び、古地図を紐解くことを生業としてきた。
幾重にも重なった紙の匂い、時代の擦れた線が私の指をくすぐる。
忘れられた村や消えた道を辿るのは、古の息吹を感じるようで楽しかった。

しかしある日、私はそれまで見たこともない線に気づいた。

幾枚もの地図に、確かな筆跡で引かれた一本の線。

その線は紙の劣化や汚れではなかった。
誰かが「ここに道がある」と信じ、強く引いた痕跡だった。

線は不自然に曲がり、山や谷を避けるように進んでいた。
そして人の気配が途絶えた森の奥で、まるで断ち切られたかのようにぷつりと終わっていた。

どの地図にも、その線に名前は記されていなかった。

唯一、焼け焦げた地図の隅に、ぼんやりとにじむ墨で「かやつ」と読める文字があった。

その瞬間、私の胸は激しく打ち震えた。
なぜだか理由はわからぬ。
ただ、その名をどこかで聞いた気がした。
思い出そうとすればするほど、指先が震え、頭が熱を帯びるようだった。

調査を続けると、周囲の態度が徐々に変化した。

図書館の職員は私の質問を避けるようになり、
長く親しくしていた土地の老人たちも言葉を濁し、笑顔の裏に何かを隠しているようだった。

誰一人として「かやつ」の名を口にせず、
まるで忘れることが必須であるかのように扱われた。

だが私の好奇心は逆に燃え上がった。

どこにあるのか。
なぜ隠されているのか。
誰がそれを隠しているのか。

学問としての探求心だと自分に言い聞かせながらも、
次第に私は何かに取り憑かれたように思えた。

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