ある夜、夢にあの場所が現れた。
霧がたちこめる薄暗い山道。
足音は消え、空気は重く、どこからともなく鈴の音がかすかに響いていた。
そこに立つ家々は見覚えがなかった。
人の姿もなく、音も匂いもない世界。
しかし、視界の端で何かが動いた。
それは人の形に似ていたが、違った。
その瞳は空洞のようで、口は動かず、笑っていた。
目を覚ました。
明け方の布団の中。
だが背中に冷たい何かが触れているのを感じた。
それは重く、息遣いさえ聞こえた。
振り返ってはいけない。
強くそう思った。
その冷たい感触が背中に残る数日後、私はついに現地へ向かう決意をした。
あの「かやつ」と呼ばれる場所。
それは地図に載ってはいなかったが、確かに存在していた。
山奥、誰もが避ける古びた神社の跡。
倒れかけた鳥居の奥に、苔むした獣道が静かに伸びていた。
私は一歩一歩、その細い道を進んでいった。
空気が違った。
息を吸うごとに胸の奥がざわつき、周囲の音は吸い込まれるように消えていった。
一人のはずなのに、背後から微かな足音が響いた。
振り返ろうとしたが、体は思うように動かなかった。
しばらく歩くと、視界がぱっと開けた。
そこには小さな村があった。
屋根は低く、木造の家々が肩を寄せ合うように並んでいた。
土の匂いが鼻をつき、どこか懐かしい空気が漂っていた。
人影は見えなかった。
しかし、まるで誰かが「待っている」ような気配があった。
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