でも、どうして?
俺の手帳に?
俺の筆跡で?
以降、日記を開くのが怖くなった。
それでも、「何か書かれているかもしれない」という恐怖から、ページをめくらずにはいられなかった。
その夜から、“音”が始まった。
誰もいないはずの部屋で、ページがめくられるような音。
静かな夜に、紙がめくれる「パラッ」という音が不意に鳴る。
最初は気のせいだと思った。
でも、机の上に置いたボールペンが、わずかに揺れていた。
しかも、“字を書く動き”で、空中にゆっくりと弧を描くように。
そして──
いつも決まって、午前2時13分になると、全身が硬直する。
金縛りというより、“固定”される感覚。
目だけが動いて、勝手に天井を見上げる。
そこに、“いた”。
天井から首を吊った男が、
俺とまったく同じ顔で、俺を見下ろしていた。
──笑ってなどいなかった。
眼だけが濡れていて、口元はだらんと開いていた。
その瞬間、意識が途切れた。
翌朝、手帳を開くと、日記の「名前」の欄に、赤いインクで大きく“×”が記されていた。
血のような赤だった。
インクのペンなんて使った覚えはない。
それどころか、そんなペンは家にない。
その日から、日記の記述は現実とずれ始めた。
今日、彼は自分の指が六本あることに気づいた。
昼休み、鏡に映っていたのは“昨日の服を着た彼”だった。
同僚のAはもう存在しない。だが、彼はまだ“在ることになっている”。
自分の記憶が、本当に正しいのか自信がなくなった。

























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