……何も、見ちゃいなかったんだ。
俺に見えていた彼女は、俺以外の男と肌を重ねる、貞操観念を喪失した女性でしかなかった。
でも実際は違う。もちろん、違う。
俺という駄目な夫に献身的に尽くす妻だった。
どうしようもない、猜疑心に満ちた、器の小さな男に尽くしてくれる女性だったのだ。
俺は、映像を見ながら泣くことしかできない。
俺は……俺は……。
泣きながら、滲む視界で妻から目を離せない。目を、離さない。
時折こちらを見ながら微笑む妻の顔から、目が離せない。
ああ、この笑顔だ。
結婚を決意したあの日。プロポーズをしたあの日。
この笑顔にやられたんだ。
生涯をかけて、この人を幸せにしようと誓ったんだ。
俺は……本当に間抜けだ。
俺は、最低の馬鹿野郎だ。
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