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ヒトコワ

入月麗奈さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ぼくはともだちがすくない
長編 2025/10/06 21:28 6,280view
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「あ、タクマくんだ!」

僕は自分の名前を呼ばれて、下げていた視線を上げる。
小学生の中のひとりが僕に気づいたらしい。

「タクマくん! 助けて!」

助けて! 早く!
僕に期待するいくつもの声を聞き、僕の足の震えは止まる。

「う、うわー!」

もう、破れかぶれだ。
一か八か、とにかく全身を使って体当たりしよう。
いくら体重の軽い小柄な僕だって、全力で突っ込んだら相手も吹っ飛ぶだろう。
高校生と言っても僕らと年齢だってそんなに変わらないんだし、身長だって10cmくらいしか違わないんだから。

「なんだこいつ」

殴られた。

そして蹴られた。

最初の一発で僕は地面に転がり、「い、痛い痛い」と頬を抑えながらうずくまっているところを、何度も何度も踏みつけられて「こいつ頭おかしいだろ」とか言われながら、顔や腹を蹴られまくる。

僕は泣きながら「許してください! 許してください!」と懇願するんだけど、全然許してくれなくて、僕の顔は鼻血まみれだし、眼鏡も割れるし、お腹の痛みと恐怖心からおしっこを漏らしてしまう。

「きたねーなこいつ」

土下座の格好になっている僕の頭につばを吐きかけて、高校生は去っていく。

僕を心配そうに見守る小学生たちに向かって「みんな、怪我はない?」と、精一杯の強がりで微笑んで見せると、いきなり顔面に石を投げつけられた。

「マジだせーんだけど」
「使えねー」
「こいつ意味ねーじゃん」

口々に僕に暴言を吐きかけ、「二度と話かけんなよ」という捨て台詞を残して子供たちは行ってしまう。

そんな、嘘だろ?
こんなことってあり得るのか?
身体を張って助けたんだぞ僕は。

……いや、助けられてはいなかったかもしれないけれど、少なくとも彼らは怪我を負ってはいないだろう。
それは僕がこうして飛び出してきたからだし、もし僕がこうしてボコボコにされなかったら、きっと彼らがやられていたに違いない。

「何で……おかしいよ、こんなの」

僕は泣いてしまう。
身体の痛みよりも、心の痛みのほうが強かった。
何で僕がこんな目に合わなければいけないんだ。
勇気を出して子供を守ったのに。
何でこんなことになるんだよ。
人気も人望も、尊敬も友情も、すべて失ってしまった。
たった数分で、すべてを失ってしまった。
僕の人生のすべてと言ってもいい、大事な友人たちだったのに。
もう僕は、おしまいだ。
明日からどうやって生きていけば――

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