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呪い・祟り

kkさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

常連客のバチさん
長編 2025/09/29 19:25 7,973view
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ある日、私は勇気を振り絞り、バチさんに尋ねた。
「あの……貴方は……人に“バチ”を与えることができるのですか?」

バチさんは目を細め、いつものように笑った。
「貴方はぁ…いい人だからぁ…大丈夫ぅ…私ぃ…バチさんだけどぉ……いい人にはぁ…バチを与えないからぁ…」

それ以来、バチさんは今も毎日、変わらずカフェに通い続けている。

と話を語り終えると、店長はしばらく沈黙したあと、ぽつりと口を開いた。

「……あの後、私は“バチ”という名前の意味を調べてみたんだ。そうしたら……やっぱり、バチとは『罰』のことだった。」

店長は深いため息をつき、天井をぼんやり見上げる。
「つまり、あの人は――悪いことをする人に“罰”を与える存在なのかもしれない。だが、いい人には決して罰を与えない。だから、私はバチさんに、丁寧に接するしかなかったんだ……」

その言葉の重さに、俺は背筋が凍る思いをした。

店長の目は真剣で、決して冗談ではないことを物語っていた。

すると店長はゆっくりと俺の方を見つめ、低い声で言った。

「〇〇君……この話を聞いても、まだこのお店で働きたいか?
バチさんに対して丁寧な接客をする限り、命の危険はないと思うが……それでも、どうする?」

店長の目には、軽い冗談ではなく、本気で俺の判断を見極めようとする鋭さがあった。
その視線に、自然と身が引き締まる。

俺は一瞬言葉を詰まらせた。頭の中には、あのアルバイトや常連客がどうなったかの光景がよぎる。冷たい汗が背中を伝い、心臓が早鐘のように打つ。

「……でも、俺は……働きたいです」
震える声でそう答えた。理由は簡単だ。大学の授業の合間に働けて、あの落ち着いたカフェの雰囲気は気に入っていたからだ。
店長はしばらく黙って俺を見つめていたが、やがて小さく頷き、静かに言った。

「……わかった。じゃあ、くれぐれも忘れるなよ。バチさんに対しては、絶対に丁寧に……それだけだ」

その言葉を胸に、俺は深く息を吸い込み、改めてカフェでの仕事に向かう覚悟を決めた。

それから数年間、俺は大学に通いながら、あの古びたカフェでアルバイトを続けていた。バチさんはその間も何度もやってきて、いつも通り丁寧に接客を続けていた。

しかしやがて大学を卒業し、会社への就職が決まった。勤務地が少し遠くなったため、もうアルバイトを続ける必要はなくなった。

その日のうちに、俺は店長に辞めることを報告した。
「これまでお世話になりました」と頭を下げると、店長は静かに頷いた。

その日は、あのバチさんには会わなかった。

それ以来、俺は会社での仕事を続けながらも、たまに休みの日にカフェを訪れて、店長に会うのが日課となっていた。

バチさんにはもう会うことはないが、店長によれば、今でもあの店に現れ、ワッフルを食べてコーヒーを飲んでいるという。
店長は生涯このカフェを続けるつもりらしく、バチさんへの丁寧な接客も、これからも変わらず続けるつもりだそうだ。

8/9
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