しゃがんだ姿勢のまま視線だけを上に向けてみると、そう言うことかと納得した。
リビングから布団を敷いてあった仏間の襖を開けると、丁度仏壇が見えるのだがその上にご先祖様達の遺影が並んでいるのだ。
姉と姪、そして僕の事を守ってくれたのかなと仏壇に向かい手を合わせた。
その時ポンと誰かが僕の肩に触れた。驚いて振り返るとそこには祖母が立っていた。
「どうしたの?」
祖母は僕の持っていた盛り塩に視線を落とし
「昨日の夜なんかあったんか?」
「いや……別に何もないよ?」
そう答える僕を目を見たまま祖母は続けた。
「人が亡くなった日はな。あっちの世界とこっちの世界の境界が曖昧になる。親しい人間が亡くなれば尚更のこと」
僕は黙ったまま頷き祖母の言葉を待った。
「悲しんでいる時。落ち込んでいる時。精神的に弱っている時。その隙間を狙ってあいつらは簡単に持っていく。いいか?こう言う時こそ気を強く持っておかんとダメだ。絶対に油断をしない事」
「昨日の夜、何があったら言いたくないなら聞かんが姉Bが倒れた件もある。まだ数日は気を抜いたら行かんぞ。何もするにでもいつも以上に慎重に。だ」
普段大人しい祖母がこんな事を言うのは珍しかったから驚いたが、たしかに盆、正月、葬式そう言った行事がある時は祖父も祖母もいつも以上に周りのことも含めて気を使っていたなと言う事を思い出した。
うん。と下を向いたまま頷いた僕を見て祖母が
「まぁお前たちがあっちに連れていかれそうになっていても爺さんがお前たちを蹴飛ばしてでも向こうには行かせないだろうから安心しろ」
そう言って少し笑うと仏間から出ていった。
それから三日間、僕はいつも以上に気をつけて行動した。あの通夜の夜から変な事は一切起こっていない。ただ姉Bを除いては。
通夜の夜には緊急で手術を行い、盲腸を取り除いたのだが、その傷の治りが異常と言ってもいいほど遅かった。更に毎日消毒していたのにもかかわらず傷口が化膿し、そこから感染症を引き起こし何度となく命が危ない時があった。
普通の入院期間より一ヶ月以上もかかってようやく退院出来た。
これは兄から聞いた話なのだが、姉Bは手術をして入院した時、毎晩夢を見ていたらしい。
それが見た事ない男と女三人が手術の傷口を引っ張り指で掻き回したり傷口を舐め回したりする夢だったそう。
痛い。気持ちが悪い。と毎晩夢の中で思っていたある夜
「辛かったな。痛かったな。怖かったな。こいつらは俺が連れていくからな。もう大丈夫」
姿は見えないけれど確かにそう聞こえたらしい。
その日からその三人組が夢に現れる事も無くなって徐々に傷も良くなっていき、無事に退院という運びになったらしい。
兄が祖父の声じゃなかったか?と聞いたが、似てた気もするけど分からない。と言っていたそうだ。
でも僕は姉Bを助けてくれたのは祖父だと信じている。
優しくていつも僕達の事を気にかけてくれていた祖父があの三人から守ってくれたのだと。


























いい話、、