「……どこにいる?」
声は、笑っている。
冷たく湿った笑い声。
目を閉じ、体を小さく丸める。
床下の影に完全に隠れても、気配は消えない。
ギィ……ギィ……
足音の振動で洗面所のドアがわずかに揺れる。
廊下の足音が一歩、一歩、こちらに迫る。
鼓動が早すぎて耳がおかしくなる。
次の瞬間――影が洗面所のドアの隙間に映った。
「……いたな」
声が、背後からも聞こえた。
ドアを無理やり開けようとする金属の音。
逃げられない。
心臓が張り裂けそうになる。
何も考えられない。ただ、布団のように丸まる自分の体。
影が近づき、手が伸びてくる。
指先が肩に触れた瞬間、全身の力が抜ける。
暖かくも冷たい、狂気の手の感触。
「……もう、逃げられないぞ」
暗闇の中、笑い声だけが永遠に続く。
鼓動と呼吸のリズムは、完全に狂人に掌握されていた。
――家の中に、二人だけ。
逃げ場はもう、どこにもない。
手が肩に触れた瞬間、全身の力が抜けた。
暖かくも冷たい、その感触。
そして、静かな笑い声。
――俺は、ここにいる。
ずっと見ていた。
最初から、奴がどこに隠れるか、すべて分かっていた。
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