「もう、逃げられないぞ」
奴は身を震わせ、呼吸が荒くなる。
心臓の音が、聞こえる。
だが、もう何の意味もない。
その鼓動も、俺のリズムの一部だ。
暗闇の中、奴の目が見えた。
恐怖で瞳孔が開き、涙が頬を伝う。
最高だ――その震え、その恐怖、完璧だ。
俺は一歩、近づく。
足音を立てず、ただ影だけを滑らせる。
奴は息を止めて、微動だにしない。
だが、分かる。
逃げたくても、もう体は動かない。
「よく隠れたな……だが、終わりだ」
指先が頬に触れ、体温が伝わる。
奴の鼓動は俺に同期する。
もう、逃げることも、叫ぶこともできない。
この家の中、完全に、俺の世界だ。
暗闇に包まれたまま、笑い声だけが響く。
奴の鼓動も、俺のものになった。
――これで、二人だけ。
永遠に。
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