奇々怪々 お知らせ

不思議体験

入月麗奈さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

桜舞い散る儚い導べ
長編 2025/08/01 16:12 2,247view
2

 色んな葛藤の中、すっかり笑顔を忘れてしまったのは俺自身だなと自虐しつつも悩み続けていた五年後の俺の誕生日の翌日に受けた健康診断の結果、がんが見つかる。胃がんと大腸がんのセットだった。
 検査結果を見ながら乾いた笑いを漏らしてから、最後のリープを使うかを考えるけれど、もちろん意味がないので俺はやり直さない。

 一年は生きられないだろうという医者の宣告を受けて、俺は残りの人生の過ごし方を考える。

 まだ三十代。平均寿命の半分も生きてない俺が死ぬ準備をするだなんて現実感がなさすぎて何から手を付けて良いのかわからない。

 でも、俺が絶対にしなければならなことはわかっていた。

 桜を殺すことだ。

 俺は桜が入院している病院に行き、担当医師にがんが見つかったことを伝える。余命は一年ということも伝え、桜の生命維持を中断したいと告げる。

 俺の死後にも桜の面倒を見てくれる制度だとかを色々説明されたけど、俺は考えを変えず、医師も最終的にはそれを尊重してくれた。

 そして、桜の延命措置は中止される。予想と違っていたのは、いきなり呼吸器とか身体に繋がれたチューブなんかを全部外して一気に絶命するのかと思っていたけれど、そうではなくて、桜が苦しまないように、徐々に命が失われていくという感じだった。

 桜は死に、葬式を終えて、いよいよ俺はこの世でひとりぼっちになる。
 仕事も辞めて、俺は日がな一日自宅から出ることもなく過ごす。

 どれだけ過去を反芻しても反省しても、残り短い人生では活かしようもないし意味だってないということに思い至り、気晴らしに散歩に出かけてみる。

 目的地もなく町を彷徨い歩いていると、気付けば桜通りに出ていて、自然と俺は桜を思い出す。

 結婚式の数日前、桜が言っていた。

「浅倉桜なんて、駄洒落みたいな名前が子供の頃は大嫌いだったけど、大人になってからは少しだけ好きになれたんだ。だから、結婚して名字が変わることがちょっとだけもったいない気もして、嬉しい気持ちと寂しい気持ちがあるの。でも、あたしは浅倉桜ってフルネームが好きなんじゃなくて、桜って名前が好きだから、水無瀬桜になっても変わらずに自分を好きでいられるの。水無瀬智秋の隣にいる水無瀬桜が、あたしはきっと一生大好きでいられるんだよ」

 そんなセリフを思い出して、俺は桜の木の下で散歩中の親子がいるのを気にせず号泣してしまう。

 俺は俺のクソみたいな人生を振り返る。

 桜は俺と出会ったことで、二十代という若さで死ぬことになってしまい、俺が桜と出会ったせいで小雪は一年にも満たない、俺の残りの人生よりも短い生涯を終えることになってしまった。

 俺は他人を不幸にすることしかできないクソ野郎でしかなくて、生きてる価値なんて微塵もないゴミ以下の存在で、俺は俺がこうして今生きている自分のことが猛烈に許せなくなる。

 でも俺は自殺はしない。俺は俺に罰を与えなければならないからだ。
 誰かに与えられる罰では意味がない。俺が俺に、最大級の罰を与えなければならないのだ。

 俺はこの命が尽きるその瞬間まで精一杯苦しみ、その瞬間まで桜と小雪に謝罪をし続け、そして死にたくないと喚きながら、自分の人生を悔いつつ死んでいかねばならない。

 肉体の痛みを与えることは限界があるが、精神の痛みは際限なく与えることができるはずだ。

 余命宣告から七ヶ月目の朝、俺は激痛と共に、自分が死ぬことを理解する。
 走馬灯の如く、色んな出来事が脳内で暴れまわってるけれど、でも俺はやっぱり死にたくないとどこかで願っている自分に気付いて、嬉しく思う。

 死にたくないと思いながら死んでいくことが、俺に最も相応しい罰なのだから。

4/4
コメント(2)
  • なんとなく分かります。正直きついですよねえ

    2025/08/09/21:25
  • 最後の場面でもう一度過去に戻る的なのを期待したけれど意外にもそのまま逝ったな

    2025/08/18/13:36

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。