初めては中学の入学式だったこととか、全部で六回しかチャンスがないのに無計画な俺は既に五回も使ってしまっていることなんかを全部ありのままに伝えた。酔っ払いの戯言だと聞き流すだろうなみたいに思ってたけど、桜は「じゃあ最後の一回、大事にしないとだね」と俺のホクロを撫でた。
こんなことでと言われそうだけど、多分俺が桜と一生添い遂げることを願い誓ったのはその時じゃないかとあとになってふと思った。
人生の重要な決断って意外とこういうちょっとしたことがきっかけだったりするんだろうなと含蓄めいたことを考えながら、俺は二十八歳の秋に桜と結婚する。そして桜のお腹に生命が宿っていることがわかる。
翌年、三千二百グラムの一女を授かり、名前は桜が考えた小雪に決まる。
俺は正直なんでもいいと思っていたから、まあ桜が決めた名前なら俺はそれでいいよと告げ、水無瀬小雪は母乳を飲みながらすくすくと成長していくかと思われた矢先、わずか四ヶ月の人生を突然終える。
乳幼児突然死症候群という病気だった。
俺は悲しんだけれど、それ以上に深い悲しみを桜は味わったと思う。
葬儀の最中はもちろん、小雪が灰になって空に昇っていったあとも桜は笑うことがなかった。
傷心の桜を見ているのが辛くはあったけれど、俺はタイムリープしようと思わなかった。
こういう時こそが「いざという時」だということくらい当然俺だってわかっている。でも、悩んだ末に使わない決断をくだした。
一週間前に戻したからといって、乳幼児突然死症候群という病気から命を救えるとは限らないという考えが最大の理由だ。
それに、桜も俺の能力を使おうとは言わなかった。
信じてなかっただけかもしれないし、今がその時だと思っていなかったのかもしれない。それは桜にしかわからない。
そして、小雪がこの世を去ってから八日目に、桜は自殺を図る。
未遂に終わったのは、奇跡的なまでの早期発見が理由だ。
仕事から帰ってドアを開けた瞬間に首を吊る桜を見つけてすぐに紐を切ってぐったりとした身体を下ろし、すぐに救急車を呼んで搬送されて迅速な治療が行われた結果だったけれど、何日経っても桜は目を覚まさない。
どうやら首吊り前に睡眠薬も飲んでたみたいで、相乗効果というか、どうやら本格的に死のうとしていたらしいのだ。
こうなると、俺は桜を救うべきではなかったんだろうかという思いに苛まれ始める。
天井から吊るされる桜を発見したときに、俺は桜がきちんと絶命するまで見届けてから救急なり警察なりに電話すべきだったんだろうか。
そんなことがあるわけがない。俺は桜を失うなんて考えられないからだ。小雪だってもちろん血を分けた親子だったし、小雪の死は俺の心を深く深く抉りに抉ったけれど、桜が死のうものなら俺の心臓は握り潰されてしまう程のショックを受けるだろう。
桜だけは失いたくない。なにがあっても。
しかし俺はやっぱりタイムリープしない。
今、この時ほどその時である時はないのは重々承知しているが、俺は絶対にタイムリープする意味がないと理解していた。
なぜなら、桜の自殺の理由は明確で、それはもちろん小雪の死であって、今から七日前に戻っても小雪は既に死んでいるからだ。
そして、小雪が死んでしまっている以上、桜は命を投げ出してしまうだろう。一日中、二十四時間監視して絶対に死なせないようにすることは可能かもしれないが、一秒たりとも目を離さないなんて不可能だし、そもそも監視しながら生活を送ることが幸せだとは俺には思えない。
俺はもうひとつ気付く。桜が自殺したのは小雪が死んでから八日目だったことに。俺が七日前に巻き戻しても意味がないように、敢えて八日待ったんだろう。
桜は生き返ることを望んでいないし、戻ったところでもう一度桜を死なせてしまうだけだ。
二度と桜に苦しい思いはしてほしくないし、子供を失った悲しみを味わってほしくもないし、俺だって桜を二度も失いたくない。
それから俺は目を覚まさない桜に毎日話し掛けながら、職場と病院と家だけを延々と往復する生活を送る。
俺は桜の自殺を否定するつもりはないし、当然肯定するつもりもないが、でもやっぱり俺になんの断りもなく命を投げ出してしまったことに対してだけは怒りもあって、眠り続ける桜に対し恨み言を言ってしまうこともあったけれど、それでも俺はいつかまた桜の笑顔が見られると信じて桜に話し掛ける。





















なんとなく分かります。正直きついですよねえ
最後の場面でもう一度過去に戻る的なのを期待したけれど意外にもそのまま逝ったな