俺はこれから、自分というものを見つけ出さなければならない。
ロラゼパムって薬も飲むようになってから、妄想と現実の区別も何となくつくようにはなったけど、今でも自分には妻子がいると錯覚してるし、帰宅する度に三部屋ある気がしてしまう。
でも、そんなことはどうでもよくて、いや、どうでもよくはないけど、それより今の俺にはひとつだけ願いがある。
妄想の妻子には二度と会えなくていいが、俺を救ってくれた、あの強盗にはもう一度会いたい。
会って、礼を言いたい。
今から思えば、きっとあの目出し帽の下には俺と同じ顔があったんだろう。
俺は俺を、無意識に救いたかったんだ。
どこかで、俺自身を救わなければならないって思いがあって、そいつが妄想という形で具現化して、俺の指を折って、痛みを与えることで正気に戻したんだ。
俺は俺に救われた。
でも、俺はあいつに礼のひとつも告げられない。
では俺はどうするべきか。
「生きるしか、ないよな」
ただ、生きていくこと。
病気に負けず、生きていくこと。
それがあいつの――俺自身の望みなのだから。
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感動や🥹
マジで伸びて欲しい。この人の書く話が好きすぎる。