馬鹿を言うな。そんなわけがないだろうと否定したいけれど、恐らく俺の顔は笑顔ではなく引き攣ってるだけだと思われる。それをこいつは笑ってると誤解してるだけだろう。
死を前に笑う人間なんているわけがない。
――まだ殺されると決まってないし、俺はなんとかして助からないといけない。
これからも二人を守っていかなければならないのだから。
こんな奴に、こんな奴に――
「なんかお前、気持ちわりーな。にやにやしたり、泣きそうになったかと思えばいきなり睨んでるし」
気持ち悪いだと? 強盗に殺されかけたら誰だって気持ち悪さのひとつやふたつ顔を出すだろう。
まともな精神状態でいられるはずなんて――
「お前さ、病院行ったほうがいいよ、絶対。やべーって、マジで」
強盗からやべー奴扱いされるなんて、一体どれだけおかしな表情をしてるんだ俺は。
というか、強盗に心配されるって、俺はそんなにヤバい奴なのか?
「一緒に行ってやるからさ。確か駅に向かう途中にあったろ、心療内科。今から行こうぜ」
目出し帽の中の表情は伺い知れないけど、声音からは本気で心配してる感じがする。
そいつは俺の上から降りて、「財布とスマホだけ持ってけばいいだろ。あと保険証も忘れんなよ」と親切に持ち物まで確認してくれる。
俺は、呆気にとられつつも、なんかこいつの言う通りにしておくべきだと強く思う。
目出し帽の強盗と並んで歩くこと数分、小さな診療所に着く。外の看板には確かに『心療内科』とも書かれていて、強盗の言っていた通りだった。
「じゃあ、行ってこいよ」
「? 中まで一緒に来てくれないのか?」
「あたりめーだろ。お前、こんなマスク被ってて病院入れるかよ」
みんな驚いちゃうだろうがと、はにかみながら、照れ臭そうにそいつは言って、「じゃあな。がんばれよ」と軽く手を振って踵を返す。
数秒で姿は見えなくなったけど、俺はしばらくの間そいつが去っていった方向を呆然と見ていた。
待合室には一人の老婆しかいなくて、俺はすぐに診察室へ通される。
で、統合失調症と診断される。
リスペリドンって薬を処方されて、折れた左手の指の治療も別の医師がやってくれた。
それから俺は心療内科に通う。
俺の家はワンルームマンションで、当然部屋はひとつ。住人も俺ひとりだった。
俺に妻子はおらず、友人と呼べる人間もいなかった。
医師が言うには、強盗も俺が見ていた幻で、自宅玄関で自分の指を必死に折り続けていた俺は結構重度の統失っぽくて、でも割とすぐに自分がそういう病気であることを受け入れてるみたいだから、回復も早いかもしれませんねと言われる。
俺が見ていた幻。俺が歩んでいた人生。
俺という人間は、一体なんなんだろう。

























感動や🥹
マジで伸びて欲しい。この人の書く話が好きすぎる。