中三の六月。うちのクラスは転校生が来るって話題で持ち切りだった。
なんかすげー中途半端だなーみたいな感じで、興味なさそうな風を装いながらも、転校生は女子らしいって情報に浮足立ってしまう。
まあ、青春真っ只中の男子なんてそんなもんだろう?
だるい全校朝礼を終え、朝のホームルームで件の転校生は紹介される。
「網野真奈美です」
自己紹介を促され、覇気のない声で名前だけを告げ、ボーッとした表情で教室を見回す網野。
照れてるなら俯きそうな気もするし、自己紹介の素っ気なさは興味のなさの現れか?なんて、俺の方こそボーッとしながら、直立不動の網野を眺めてたら、「じゃあ網野は野中の隣な」と、担任は突然俺を指差す。
野中って言われても誰だか分かんねーだろ。指差してたからこっちの方ってことは分かるだろうけど。ていうか、俺の隣しか空席がないから消去法というか、必然的に俺の隣しかないんだけどさ。
網野は無言でスタスタと俺の隣の空席に座る。
で、ジーッと俺の顔を見つめる。
なんていうか、網野、ブスではないけど可愛いとも言い難いっつーか、何とも言えない容姿だな。髪の毛は後ろで縛ってて、ポニーテールなんだけど、ピチッとしてるっていうか、近くで見るとかなりツヤがある。整髪料でもつけてるのかな。
いや、ていうかおいおい、いつまで見つめてくるんだよ。まさか一目惚れとか言い出すんじゃないだろうな。なんて自惚れを隠しきれずに「俺、野中。よろしくな」と、精一杯の爽やかボイスとはにかみスマイルで言ってみる。
あれ、これ結構恥ずかしいやつじゃないか。後ろの席から田辺のクスクス笑いが聞こえてくるし、なんか転校生をナンパしてるみたいな感じに見られてたら超恥ずいんだけど。
「陽ちゃん」
網野は、そう言った。
嬉しそう破顔して、俺に向かってそう言ったんだ。
陽ちゃん? 俺の名前は野中陽平で、確かに親とか婆ちゃんからは陽とか陽ちゃんとか呼ばれてるけど……いきなり下の名前で呼ぶか?普通。
ていうか、なんでこいつは俺の名前知ってんだよ。
「会いたかった……ずっと、ずっと、ずーっと捜してたんだよ」
「捜してた?」
別に俺は行方不明になったこともないし、指名手配されるような悪事を働いたことなんてもちろんない。
「俺を捜してたって……え、ほんとに、俺? 野中陽平? 人違いじゃなくて?」
って質問に、網野は笑顔しか返さない。
いや、初対面の人間の表情だけで考えてることなんて分かるか!ってツッコミたいのもやまやまだけど、網野が俺の名前を知ってたのは事実で、ということはほんとに俺のことを知ってるんだろう。
「ごめん、なんで俺のこと知ってんの?」
網野は笑顔を崩さない。なんていうか、ニンマリみたいな表情だ。でも目尻は垂れてて、ほんとに嬉しそうでもある。
「私だよ。真奈美。マナって言ったほうがわかるかな」
「マナ……」
うーん、全く思い出せん。
「ごめん、ちょっとわかんないや。あ、じゃあなんかヒントくれる?」


























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