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不思議体験

沈丁花さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

凶事の予感、それでも(加筆修正版)
長編 2025/06/29 20:25 3,451view

 この穏やかな雰囲気の男性は、祖父のそのまた父親ー私の母方の曽祖父に違いない。そうして彼は言葉を続けた。
『これまでずっと一人暮らしで、寂しかったね。会社で沢山嫌な思いもして、辛かったね。』
 曽祖父にいたわりの言葉をかけてもらった時、確かに私は一人暮らしの部屋で、孤独感を募らせていることを思い出した。私は雇用を求めて一人全く知らない土地に行き、そこで会社と部屋を往復するだけの、侘しい暮らしをしていた。次に、会社の意地悪な奴らの顔を思い出したー完璧主義で、キャバクラ好きで、長時間部下を説教する男性の課長。、ヒステリックで、口が悪い女性の専務。気性が激しく、会社にふさわしくない華美な服装とメイクを好む女性の後輩。
 一人暮らしの心細さや、会社での根本的な悩みが解決されたわけではない。しかし、私だって本当は誰かに心の痛みを聞いてほしかったのだ。私は曽祖父によく慰めてもらい、明るく満ち足りた気持ちになった。

「ご先祖様は此岸にいる人間には見えないだけで、本当はいつも私達子孫のことを見守ってくれているのですね。」
と、私は心の中で曽祖父に感謝の意を伝えた。すると曽祖父は、
『そうだよ。でも、おまえにはわし等◇◇(母の旧姓)家の先祖がついとるし、お母さんだっているじゃないか。だから、一人じゃないんだよ。』
と応答してくれた。

 この時、私の心は曽祖父の心と一つになっていた。これまで出会った誰にも感じたことのない、鮮烈な感銘を曽祖父から受けた。曽祖父と私は互いに生きた(生きる)時間や生死さえも超えて、溶けて混じりあっていた。私達を分けるのは、互いの魂の違いだけだった。

 おそらく私は、相当長いこと曽祖父の墓標の前で手を合わせていたと思う。私は母の声で、現実に戻った。頬に当たる風までもが冷たい。母と私は、これから祖父の見舞いに行かなければならないのだ。そうしたら、
『おまえ、もう行くのか。』
と、曽祖父に再度話しかけられた。
曽祖父と一緒に私を出迎えてくれた人達は、これから母と私が祖父の病院に向かうことを知っていたのだろう。
『□□(母方の祖父)はまだそっちにいるけど、”大丈夫や”と伝えてくれ。』
と、私は曽祖父からの言伝を預かった。
 私は墓標の前で、

「わかりました。いつもありがとうございます。これまでも、ありがとうございました。」
と謝意を述べた。
 墓場の入り口で母方の先祖の墓所の辺りを振り返った時、この集合墓地が一つの温かな町のように見えた。目を凝らせば、行きかう墓地の住人までもが見えそうだった。墓地は仏さまになった人々が安らかに眠る場所であるが、この時の私は、故人には故人の<営み>があると確かに感じた。
 

 この墓地は短いながら大変急な坂道を登り切ったところにある、言わば、絶壁の上に位置しているので、県中央にあるA高原を臨めるほどである。登るときも降りるときも、ぺたんこ靴でゆっくり歩かないと危ない。この坂道を半分降りきったら、左手側に民家がある。右手側には、田圃と軽自動車一台が通れる通れるくらいの道がある。正面には大人一人しか通れない程の狭い道があり、これまた大変な急勾配である。
 この辺りまで来ても、私はまだ母方の先祖の墓所で受けた温もりの余韻に酔っていた。そうしたら、
『また何か辛いことがあったら、いつでもここに来なさい。』
と、墓場の方から呼びかけられた。言うまでもなく、私にしか感じとれない言葉だ。
 だが、上記の言葉を私にかけたのは、本当に母方の曽祖父だろうか。もしかしたら、見知らぬ霊魂の悪戯だったのかもしれない。なぜなら、私は大学二年生のお盆休みに、ちょうどこの辺りで、霊というものに出くわしたからだ。
 

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コメント(5)
  • 続きはあるんですか?

    2025/06/30/08:13
  • 沈丁花です。初心者のために短い後編をこしらえてしまい、かえって読みにくくしてしまいました。皆様に、より読みやすいと思っていただけるように、【前編】と【後編】を一緒にしました。

    2025/06/30/11:13
  • 頑張ってください!よかったです

    2025/07/01/06:43
  • 沈丁花です。コメントありがとうございます。とっても嬉しいです😊🌸

    2025/07/04/18:20
  • 沈丁花です。一部脱字と誤字がありましたので、訂正しました。間違いを発見し、直すのが遅くなる、誠に申し訳ありませんでした。

    2025/07/26/16:21

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